用途開発の進め方|候補を絞り、外した用途と理由まで残す
公開 2026-10-21
製造業の会社で、自社の技術の新しい使い道を探す用途開発を任された部長・課長がいるとします。候補を集めると、すぐに数が増えます。ところが、そのうちの1つの候補を経営会議に上申すると、「なぜこの用途なのか」「誰が買うのか」と聞かれます。上申は、上の役職の人や会議に案を出して、判断を求めることです。部長・課長が答えられずに、案を持ち帰ることもあります。
この記事の結論は、次のとおりです。候補を広く出したあと、その使い道で買ってもらう会社(以下、買う会社)の困りごとの大きさと、自社の技術の強みが効くかどうか、の2つの軸で絞ります。残した用途は、買う会社に聞いて、次の3つを確かめます。誰が何を見て購入を決めるか、困りごとの大きさ(自社の技術で変わると考えた、買う会社の仕事の変化が本当に要るか。要るなら、どれだけの損害や費用を減らせるか)、導入の負担は何か、です。そして上申書には、選んだ用途だけでなく、外した用途とその理由、どうなれば見直すかの条件、まだ確かめていないことまで書きます。外した理由と見直す条件を残しておけば、経営会議でほかの候補を聞かれたときに、外した理由をその場で答えられます。外したときの前提(例えば価格や規制)が変わったときも、どの候補から見直せばよいかが分かります。
この記事を書いている株式会社Labz.(以下、当社)は、2026年10月21日にGoogleで検索しました。検索語は「用途開発 進め方」です。1ページ目に出た9件のうち、製品の紹介ページ1件と、本文を読み込めなかった1件を除く7件を読みました。上位の記事が挙げる、候補を探す手法を、当社は4つにまとめました。特許や論文の調査、アイデア出し、現場の担当者への聞き取り、展示会やWebでの問い合わせです。このどれか1つ以上に触れていた記事は、7件のうち6件でした。外した候補を「次の段階の候補」として残しておく、と書いた記事も1件ありました。ただし、外した理由と、どうなれば見直すかの条件を、上申書に書くことまで扱った記事は、読んだ7件にはありませんでした。この記事が向けている読み手と手続きを表す「部長」「課長」「上申」の3語も、7件のどれにも出てきませんでした。
この記事では、用途の候補が上申で止まり、やり直しになる理由を示したうえで、上申までの5つの手順と、当社が支援した案件での絞り方を示します。
用途開発とは|自社の技術に、買う人がいる使い道を見つける仕事
この記事では、用途開発を、自社が持つ技術の新しい使い道を見つけ、その使い道でお金を払ってくれる顧客を見つける取り組みとして扱います。今の製品とは別の市場や業界で、同じ技術が役に立つ場面を探します。使い道を探す部分だけを「用途探索」と呼び分ける記事もあります。
ここで大事なのは、使い道を見つけることと、買う人を見つけることを、別の仕事として扱うことです。技術的に使えることは、技術部門の試験や試作で確かめられます。けれども、その使い道に顧客がお金を払うかどうかは、技術を試しても分かりません。顧客に確かめる必要があります。
用途開発が上申で止まり、やり直しになる3つの理由
使い道の候補が、社内で関心を持たれたまま、上申に進まないことがあります。上申しても止められ、候補を出すところからやり直すこともあります。当社は、その理由を次の3つと考えています。
- 候補を絞る基準が決まっていない:候補を出すことに時間を使い、どの軸で選ぶかを決めないまま、技術的に一番うまくいきそうな候補を選んでしまう
- 技術の性能の話だけで、買う会社の決め方を確かめていない:「この性能が出る」は説明できても、買う会社で誰が使い、誰が予算を持ち、誰が何を見て購入を決めるかが分からない
- 外した候補と理由を残していない:上申した用途が経営会議で止められたとき、ほかの候補をなぜ外したかが分からない
1つ目の理由と2つ目の理由は、上申したときに聞かれる「なぜこの用途なのか」「誰が買うのか」の答えを、上申の前に用意できない原因です。3つ目の理由は、上申した用途が止められたあと、次の候補へ進めずに、候補を出すところからやり直しになる原因です。
用途開発の進め方|上申までの5つの手順
1. 技術でできることを、使う会社の仕事の変化で書く
最初に、自社の技術でできることを、性能の数字ではなく、その技術を使う会社の仕事がどう変わるかで書きます。使う会社は、手順4で聞きに行く買う会社の候補です。例えば、温度を0.1度の細かさで測れる技術なら、「温度を0.1度の細かさで測れる」とは書きません。その細かさで、設備の異常の起き始めが分かり、測った温度を離れた場所から見られるとします。それなら「点検の担当者が現場に行かずに、異常の起き始めた設備を絞れる」のように書きます(説明のための例です)。
使う会社の仕事の変化で書いておくと、次の手順で用途の候補を出すとき、その変化が要る業界や仕事を探せます。
2. 用途の候補を、4つの手法で広く出す
次に、用途の候補を広く出します。上位の記事が挙げる手法を、当社は次の4つにまとめました。
- 特許や論文の調査:自社の技術と近い技術が、ほかの業界で何に使われているかを調べる
- アイデア出し:社内の営業や技術者、社外の人と、使い道の案を出し合う
- 現場の担当者への聞き取り:今の取引先の現場の担当者や、取引の無い業界の人に、困っていることを聞く
- 展示会やWebでの問い合わせ:技術を公開して、思いがけない業界からの問い合わせを集める
この段階では、候補を減らさなくてかまいません。どの手法で出た候補かを、候補ごとに書いておきます。上申のとき、候補をどこまで広く探したかを説明できるようにするためです。
3. 2つの軸で絞る|買う会社の困りごとの大きさと、自社の技術の強み
候補が出そろったら、2つの軸で絞ります。
- 買う会社の困りごとの大きさ:その使い道で解決する困りごとが、買う会社にとってどれだけの損害や費用になっているか
- 自社の技術の強みが効くか:その使い道で、他社の技術ではなく自社の技術を使う理由があるか
困りごとが大きくても、自社の強みが効かない候補は、他社の製品で足りてしまいます。自社の強みが効いても、困りごとが小さい候補は、買う会社がお金を払う理由がありません。この2つの軸の両方が高い候補を残します。
この時点の、2つの軸の高い・低いは、仮の判断です。用途開発を任された部長・課長のチームが、社内の材料(自社の技術の試験の結果や、営業が取引先から聞いた話)で付けます。困りごとの大きさは、次の手順4で、買う会社に聞いて確かめます。
4. 残した用途を、買う会社に聞いて確かめる|購入の決め方・困りごとの大きさ・導入の負担
残した用途ごとに、買う会社に聞いて確かめます。確かめるのは、次の3つです。
- 購入の決め方:買う会社で、誰が使い、どの部署が予算を持ち、誰が何を見て購入を決めるか(費用、今している方法と比べた良さ、導入の手間など)
- 困りごとの大きさ:自社の技術で変わると考えた仕事の変化が、買う会社にとって本当に要るか。要るなら、どれだけの損害や費用を減らせるか
- 導入の負担:導入するときに、買う会社が用意するものや、変える作業は何か
聞く前に自社が考えたことは「仮説」と書き、買う会社に確かめた結果とは分けて残します。回答には、答えた人の部署と役割、聞いた日も添えます。聞いた結果、困りごとが小さいと分かった用途は、ここで外します。
5. 上申書に、選んだ用途と、外した用途・見直す条件・まだ確かめていないことを書く
最後に、手順4で確かめた3つの結果を用途ごとに並べ、上申する用途を1つ選んで、上申書を書きます。選んだ用途と、その用途を選んだ理由に加えて、次の3つを書きます。
- 外した用途と、2つの軸のどちらで外したか
- 外した用途を見直す条件(何が変われば候補に戻すか)
- まだ確かめていないことと、誰がいつまでに確かめるか
候補の絞り方の事例|選ばなかった技術の扱いと、市場に入る順番まで決めていた
当社が支援した案件の最終報告(社名を伏せたもの)から、例を示します。ある電線・ケーブルメーカーの案件です。このメーカーは、海底ケーブルを売ることに加えて、新しいサービスを始められないかを検討しました。ケーブルを使う会社(洋上風力発電の事業者など)の、ケーブルの運用と保守を助けるサービスです。技術の使い道を探す案件ではなく、このサービスを誰に売り、どんな価値を提供するかの仮説を立てる案件です。
このメーカーは、サービスで見つけるトラブル(ケーブルの傷や、つなぎ目の劣化など)を39種類洗い出し、2つの軸で19種類に絞りました。軸は、トラブルが起きたときにケーブルを使う会社が受ける損害の大きさと、このメーカーの技術の強みです。この記事の手順3の2つの軸と同じ考え方です。39種類と19種類は、最終報告に書かれた数です。このメーカーが洗い出して数えた記録で、世の中で起きるトラブルの総数ではありません。2つの軸の使い方は、次の記事で紹介しています。研究開発テーマの絞り込みと撤退基準|続ける理由は書けるのに、やめる理由が書けない
この案件で参考になるのは、選ばなかった技術の扱いまで決めていた点です。トラブルを見つけるのに要る技術は、データや仕組みも含めて31種類ありました。これも最終報告に書かれた数で、39種類のトラブル全体についての数です。このメーカーは、そのうち自社で力を入れる技術を2つに決め、残りの技術も1つずつ、手に入れ方を決めていました。
| 残りの技術(例) | 決めていた手に入れ方 |
|---|---|
| 温度を測る技術など | 他社の製品を使う |
| ケーブルを遠くから監視する仕組みなど | 開発のパートナーに任せる |
このメーカーは、市場に入る順番も決めていました。
- 建設の計画がすぐに動き出す市場(海底に固定する型の洋上風力発電)は、実績を作るための市場とし、今すぐ用意できる技術でサービスを組んで入る(他社の製品を使ってもよい)
- 次に建設の計画が動き出す市場(長い距離を直流で送る送電線)から、サービスを本格的に売り広げる
- さらに先の市場(海に浮かべる型の洋上風力発電)へ広げる
この案件と、この記事の手順5に共通するのは、選んだものだけでなく、選ばなかったものや後に回したものの扱いまで決めておくことです。この案件では、残りの技術の手に入れ方と、どの市場を後に回すかを決めていました。手順5では、外した用途の理由と見直す条件を上申書に書きます。用途の候補を絞るときも、選ばなかった用途の扱いまで決めておけば、上申で外した理由を聞かれたときに答えられると当社は考えます。一方で、19種類に入らなかったトラブルをどう扱うかは、最終報告には書かれていません。
この最終報告は、事業の仮説を立てる最初の段階を締めくくる報告です。この節で「決めた」「決めていた」と書いたことは、どれもこの段階の方針や計画です。このメーカーは、サービスがケーブルを使う会社にとって価値があるかの確認の多くを、次の段階に回していました。当社は、この案件を売れた事例としては扱いません。
上申書に入れる「用途の候補の表」|選んだ用途と外した用途を並べる
外した用途は、捨てるのではなく、選んだ用途と同じ表に並べて上申書に残します。次は、説明のために置いた仮の例です。ある会社が、自社の工作機械の中で使ってきた温度センサーの技術を、工作機械の外の使い道に広げる場面とします。
| 用途の候補 | 結論 | 理由(どちらの軸か) | 見直す条件 | 確かめた相手と日 |
|---|---|---|---|---|
| ほかの会社の工場の設備の監視 | 選んだ | 困りごとが大きい(設備が止まったときの損害)・自社の強み(工場の環境で壊れにくいこと)が効く | なし | 買う会社の保守の担当者と、予算を持つ部署(○月○日) |
| 家庭向けの見守り | 外した | 自社の強みが効かない(壊れにくさは要らず、価格で選ばれる) | 家庭向けの機器と同じくらいの価格で作れる方法が見つかったとき | 社内の営業(○月○日。手順3の仮の判断で外したため、買う会社には聞いていない) |
| 建物の点検 | 外した | 困りごとが小さい(点検は年1回の目視で足りると、点検の会社が答えた) | 建物の点検を義務づける範囲が広がったとき | 点検の会社(○月○日) |
経営会議で「ほかの用途のほうがよいのでは」と聞かれたら、表のその行を示します。例えば「家庭向けのほうが市場は大きいのでは」と聞かれたとします。そのときは、市場の大きさではなく、2つの軸のどちらで外したかを示します。家庭向けを外した理由は、自社の強みが効かないことでした。あわせて、見直す条件(家庭向けの機器と同じくらいの価格で作れる方法が見つかったとき)も示します。その条件をまだ満たしていなければ、家庭向けに戻す理由は無い、と答えられます。満たしていれば、家庭向けを候補に戻し、もう一度2つの軸で比べます。
まとめ
候補を出すことよりも、選んだ理由と外した理由を残すほうが、上申に進みやすくなると当社は考えます。
- 技術でできることを、性能の数字ではなく、使う会社の仕事の変化で書く
- 用途の候補を、特許や論文の調査・アイデア出し・聞き取り・展示会やWebの4つの手法で広く出す
- 買う会社の困りごとの大きさと、自社の技術の強みが効くか、の2つの軸で絞る
- 残した用途を、買う会社に聞いて確かめる(誰が使い、誰が予算を持ち、誰が何を見て購入を決めるか・困りごとの大きさ・導入の負担)
- 上申書に、選んだ用途に加えて、外した用途と理由、見直す条件、まだ確かめていないことを書く
用途開発の候補を絞りきれないときは、製造業の技術関連テーマの外部参謀(社外から、技術が関わる判断を一緒に進める相談役)である株式会社Labz.にご相談ください。製造業の技術が分かる当社の経験者が、ほかの人に任せず自分で担当して意思決定まで一緒に進め、決めるまでの進め方が御社の部署に残るように設計しています。
いま止まっているテーマは、ありますか。
初回は、相談したいテーマと現状のお悩み、テーマの推進に掛けられる予算規模の2つを一緒に確認します。「まだ相談する段階か分からない」という状態でも構いません。
