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新規事業の撤退基準|始める前に決め、途中の見直し方まで決めておく

公開 2026-11-05

新規事業を始めると決めた後、計画どおりに進まない月が続いても、止めるかどうかを決める会議が開かれないことがあります。新規事業の撤退基準として「売上が目標に届かなければ止める」と書いてあっても、それだけでは足りません。いつ、誰が、その数字を見て決めるのかが決まっていないからです。

この記事の結論は、新規事業の撤退基準として、次の3つを始める前にまとめて決めることです。

  1. 見直す時期(この記事では「節目」と呼びます)
  2. 節目で見る事実
  3. 節目ごとに、続ける・変える・止めるを分ける条件

あわせて、誰が最後に決めるかと、実行の途中で基準そのものを変えるときの決まりも、始める前に決めておきます。基準を決めたときの前提が変われば、基準を変える必要が出ます。ただ、変えるときの決まりが無いと、結果が悪いときに基準を緩めることと区別がつかなくなります。

この記事は、事業として始めると決めた後の見直しを扱います。事業として始めるかどうかを決める基準は、事業化の判断基準の記事で書きました。

新規事業の撤退基準とは|止めるかどうかを、始める前に決めておく条件

新規事業の撤退基準とは、事業をそのまま続けるか、形を変えて続けるか、止めるかを決めるために、あらかじめ決めておく条件です。止める条件だけを決めるのではなく、続ける条件と、変える条件も一緒に決めます。止める条件だけだと、条件に当たらない限り、今の計画のまま続けることになるからです。

撤退基準を、事業を始める前に決めるのは、始めた後に決めようとすると、判断に次の3つが混ざるためです。

  • これまでに使ったお金と時間(止めると、それが無駄になるように感じて、続ける理由にしやすい)
  • 関わった人の思いと、事業を言い出した人の立場
  • 「もう少し続ければ伸びるかもしれない」という見込み

結果を見てから基準を決めると、この3つに引かれて、結果に合わせた基準になりやすくなります。

基準を決めておくことと、事業の進み具合の関係について、参考になる調査があります。アスタミューゼ株式会社が2026年9月に行い、9月29日に発表したインターネット調査です。この会社は、新規事業の判断を支援する事業をしています。回答したのは、従業員300名以上の会社に勤め、過去3年以内に新規事業に関わった人で、人数は300名です。回答者は、いちばん深く関わった1つの案件について2つのことを答えています。投資・継続・撤退を決める基準(この記事でいう撤退基準を含むもの)がどれだけ定められていたかと、計画に対する進み具合です。

  • 基準が明確に定められていたと答えた53名のうち、48名(90.6%)が、案件はおおむね計画どおりか、計画を上回って進んだ(計画どおり以上)と答えました
  • 基準があまり、または全く定められていなかったと答えた107名では、計画どおり以上は47名(43.9%)でした

残りの140名は、基準が一部だけ定められていたと答えた113名と、分からないと答えた27名です。計画どおり以上と答えたのは、113名のうち68名(60.2%)、27名のうち11名(40.7%)でした。

ただし、これは回答者が自分の案件を振り返った答えです。発表元も、案件の難しさなどの違いをそろえて比べてはおらず、基準を明確にすれば順調に進むと証明したものではない、と断っています。基準が明確な案件ほど、計画どおり以上に進んだと答えた人の割合が高かった、という事実として読むのが正確です。基準を決めたことが原因で進んだのかどうかまでは、この調査からは分かりません。

研究開発のテーマを、事業にする前の段階で止める基準もあります。こちらは研究開発テーマの絞り込みと撤退基準の記事で書きました。この記事は、事業として始めた後の撤退基準を扱います。

撤退基準で見る事実|売上の数字だけでなく、技術と体制の見通しも見る

撤退基準で見る事実には、数字で測れるもの(定量)と、数字にしにくいもの(定性)の両方を使います。

製造業の新規事業では、売上の数字が出るのは販売を始めた後です。それまでの間に、試作、量産の準備、品質を保証するための試験が入ります。売上の数字だけで撤退基準を作ると、販売を始めるまでの節目では、判断に使える事実がほとんど無くなります。販売を始める前の節目では、売上の代わりに、試した会社の反応や、技術・原価・体制の見通しが、判断に使う主な事実になります。

種類見る事実の例数字で測れるか
市場と顧客試しに使ってくれる会社の数、問い合わせや見積もりの依頼(引き合い)の数、値段を示したときの反応、競合の製品の値段一部は数字で測れる
採算売値と原価の見込み、投資を回収するまでの年数、これから必要な費用と残りの予算数字で測れる
技術試作で目標の性能が出たか、量産したときの歩留まり(作ったうちの良品の割合)と原価の見込み、品質を保証するのに必要な試験多くは数字で測れる
体制担当する人を確保できているか、量産や販売を担う部署や協力会社の了承、既存の事業との人の取り合い数字にしにくい
外部の環境規制や業界の規格の変更、主な顧客の方針の変更、原材料の値段の変化数字にしにくいものが多い

数字にしにくい事実は、「誰が、何を確かめたら、その条件を満たしたとするか」を言葉で決めておきます。たとえば「量産を担う工場の責任者が、新しい製品を作るための生産の能力を割り当てると、書面で了承している」のように書きます。言葉で決めておけば、節目の会議が「体制はおおむね整った」のような、人によって受け取り方が変わる報告だけで終わることを防げます。

節目ごとに、続ける・変える・止めるの条件を決める

撤退基準は、事業の段階ごとに分けて、始める前に用意しておきます。始めたばかりの段階で、売上が目標に届かないことを理由に止めると、まだ確かめている途中の事業を早く止めることになります。反対に、販売を始めた後も「まだ確かめている途中だから」と売上を見ないと、費用だけが続きます。

節目は、日付と、その時点で手元にそろっているはずの事実で決めます。下の表は、節目の置き方の例です。

段階(節目の例)主に見る事実続ける・変える・止めるを分ける問いの例
試しに使ってもらう段階の終わり試した会社の反応、試作の性能試した会社のうち、次も使いたいと答えた会社があるか。性能は目標に届いたか
量産の準備の段階の終わり歩留まりと原価の見込み、設備に必要な投資の額、量産を担う工場の了承原価の見込みで、決めた売値でも利益が出るか。投資を回収するまでの年数は、決めた年数に収まるか
販売を始めてから一定の期間の後売上、受注の件数、値引きの幅計画の売上に対して、どこまで届いているか。届かない理由は、市場の大きさか、売り方か

節目ごとに、次の3つの条件を決めます。

  • 続ける条件:次の節目まで、今の計画のまま進めてよい状態
  • 変える条件:事業は続けるが、狙う顧客、用途、提供の形、値段、売り方、体制、予算のどれかを変える状態
  • 止める条件:これ以上の費用と人をかけないと決める状態

変える条件に当たったときは、何を変えるか(たとえば、狙う顧客を変える、売り方を変える)を決めます。中身を変えた事業は、新しい計画として始め直すことになります。そこで、変える条件に当たった節目の会議で、新しい計画の節目と条件を、新しい計画を始める前に決めます。変えた後の節目を決めずに続けると、次に見直す日が無いまま、費用と人を使い続けることになるからです。

研究開発のテーマを段階ごとの会議で決める方法は、ステージゲートの記事で書きました。新規事業の節目でも、ステージゲートと同じように、段階ごとに確かめる問いを変えます。

新規事業の撤退基準の決め方|5つの手順

新規事業の撤退基準は、次の5つの手順で決めます。どれも、事業を始める前に行います。

1. 節目を、日付と事実で決め、会議の日程に先に入れる

節目は「必要になったら会議を開く」にせず、日付で決めて、節目の会議の日程に先に入れます。必要になったら開くことにすると、計画どおりに進んでいないときほど、会議が先に延びやすくなるからです。日付と一緒に、その日までにそろえる事実も決めます。

2. 節目ごとに、見る事実と、事実を用意する人を決める

節目ごとに、見る事実と、その事実を用意する人を決めます。事実を用意する人(事業を進めるチーム、生産技術、経理など)と、続けるか止めるかを最後に決める人(手順4)は、分けておきます。事業を進めるチームは、続けたい気持ちを持ちやすい立場です。事実を用意する人と最後に決める人を先に分けておけば、節目の会議では事実を見て判断できます。

3. 続ける・変える・止めるの条件を、数や割合の境目で書く

条件は、「おおむね好調なら続ける」のような言葉ではなく、数や割合の境目で書きます。数字にしにくい条件は、「撤退基準で見る事実」の節で書いたように、誰が何を確かめたら満たしたとするかを書きます。たとえば「試した5社のうち、次も使いたいと答えた会社が2社以上なら続ける。そう答えた会社が1社だけなら、狙う顧客を変える。1社も無ければ止める」のように書きます(5社・2社・1社は、説明のための仮の数字です)。境目を決めておけば、結果が出たときに、どの条件に当たったかで迷いません。

4. 最後に決める人と、どの条件にもはっきり当たらないときの扱いを決める

誰が最後に決めるかを、節目ごとに決めます。最後に決める人は、事業を進めるチームとは別の人にします(たとえば、その事業を任せた役員や、役員の会議)。あわせて、結果がどの条件にもはっきり当たらないときの扱いも決めます。たとえば「次の節目までの期間と予算を区切って続け、その節目で止めるかを決める」のように決めておきます。こう決めておけば、「様子を見る」が期限なく続くことを防げます。

5. 始める前に、決める人の了承を得て、記録に残す

1から4で決めたことを1枚の表にまとめ、最後に決める人に見せて、事業を始める前に了承を得ます。表には、基準が前提にしていること(次の節)と、了承した人と日付も書いておきます。了承を得ておけば、節目の会議で決める人が「その条件は聞いていない」と言い出し、条件を決め直すことから会議が始まる事態を防げます。

途中で撤退基準そのものを変えるときの決まり|変えてよい場面と、変えてはいけない場面

ここでいう「基準を変える」は、同じ計画のまま、決めてあった節目や条件を変えることです。「節目ごとに、続ける・変える・止めるの条件を決める」の節で書いた、事業の中身を変えて新しい計画にするときに、新しい計画の節目と条件を決めることは含みません。

同じ計画のまま実行を続けていると、撤退基準そのものを変えたくなる場面が出てきます。基準を決めたときの前提が変われば、前の基準のまま判断すると、かえって判断を誤ります。そのときは基準を変える必要があります。一方で、結果を見てから基準を緩めると、始める前に基準を決めた意味が無くなります。

そこで、基準を決めるときに、その基準が何を前提にしているかも一緒に書いておきます。たとえば「主な顧客の業界の品質の規格が今のまま」「原材料の値段が今の水準から大きく変わらない」のように書きます。

  • 基準を変えてよい場面:基準を決めたときの前提が変わったとき(規制が変わって必要な試験が増えた、主な顧客の方針が変わった、原材料の値段が大きく変わった、など)
  • 基準を変えてはいけない場面:前提は変わっていないのに、節目の結果が、止める条件に近づいたとき、または当たったとき

基準を変えるときは、次の3つの決まりに従います。

  1. 変える理由は、「どの前提が、どう変わったか」で書きます。結果が悪かったことは、変える理由にしません
  2. 基準を変えるかどうかは、最後に決める人(手順4)が、節目の結果を見る前に決めます。前提の変化に気づいたら、次の節目の会議の最初に、この判断を行います
  3. 変えたときは、前の基準と新しい基準を並べて記録に残し、前の基準のままならどう判断していたかも書いておきます

3つ目の決まりで、前の基準のままならどう判断していたかを残しておきます。そうすれば、基準を変えたことで止める判断が先に延びたのかどうかを、後から確かめられます。

例|自社の表面の加工技術で、新しい部品を売る新規事業(説明のための仮の例)

ここからは、説明のための仮の例です。会社も数字も実在しません。

ある部品メーカーが、自社の表面の加工技術を使った新しい部品を作りました。これを、これまで取引の無かった業界の装置メーカーに売る新規事業を始めると決めました。始める前に、次の撤退基準を決め、その事業を任せた役員が了承しました。

節目見る事実続ける変える止める
事業の開始から6か月試した装置メーカーの反応、試作の性能試した5社のうち2社以上が次も使いたいと答え、性能が目標に届いた次も使いたいと答えた会社が1社だけ、または性能が目標の8割以上だが目標に届かない(どちらも、狙う業界を変える)次も使いたいと答えた会社が無い、または性能が目標の8割に届かない
事業の開始から12か月量産したときの歩留まりと原価の見込み原価の見込みで、決めた売値でも利益が出る利益が出るのは、売値を上げたときだけ(値段と売り先を変える)売値を上げても利益が出ない
販売を始めてから12か月12か月の売上と受注の件数12か月の売上が、同じ期間の計画の7割以上同じく計画の4割以上7割未満(売り方を変える)同じく計画の4割未満

変える条件と止める条件の両方に当たるときは、止めると決めておきました。前提としては、「装置メーカーの業界の品質の規格が今のまま」と書いておきました。

事業の開始から9か月の時点で、装置メーカーの業界の品質の規格が改められ、部品に必要な試験が1つ増えることが分かりました。試験を足すと、量産の準備に3か月多くかかります。これは、基準を決めたときの前提の変化です。そこで、事業の開始から12か月の節目の会議の最初に、その事業を任せた役員が、この節目を事業の開始から15か月に移すと決めました。歩留まりと原価の見込みを見る前に決めています。記録には、前の節目(12か月)と新しい節目(15か月)を並べました。変えた理由は「業界の品質の規格が改められ、必要な試験が増えた」と書きました。

もし前提が変わっていないのに、事業の開始から12か月の時点で原価の見込みが悪く、節目を延ばしたくなったときは、延ばしません。決めた条件どおりに、続ける・変える・止めるのどれかを決めます。

止めると決めた後にすること|顧客と協力会社への説明、人の次の仕事、技術と知見の記録

止めると決めたら、次の3つを行います。

  • 顧客と協力会社への説明と、約束の整理:すでに納めた部品の追加の供給や保守を、いつまで続けるかを決めて顧客に伝えます。材料や加工を頼んでいた協力会社には、注文を止める時期を伝えます
  • 関わった人の次の仕事を決める:関わった人が、元の部署に戻るか、別の新しい仕事に移るかを決めます
  • 技術と知見を、次に使える形で残す:試作の条件と結果、確かめた顧客の反応、止めた理由を記録に残します

止めた理由は、「どの条件に当たったか」と、「始める前の見込みのうち、どれが外れたか」で書きます。外れた見込みの例は、「この業界の装置メーカーなら、この値段で買う」です。止めた事業の技術でも、別の用途なら使える場合があります。たとえば、狙った業界では値段が合わなかった部品が、別の業界では使えることがあります。外れた見込みが記録に残っていれば、同じ技術で別の用途を探すとき、同じ見込みで同じ失敗をくり返さずに済みます。自社の技術に別の使い道を探す手順は、用途開発の進め方の記事で書きました。

まとめ

  • 新規事業の撤退基準は、止める数字を1つ置くだけでは働きません。始める前に、見直す節目、節目で見る事実、続ける・変える・止めるの条件を決めます
  • 販売を始める前の節目では、売上の代わりに、試した会社の反応や、技術・原価・体制の見通しを見る事実に入れます
  • 条件は数や割合の境目で書き、最後に決める人と、どの条件にもはっきり当たらないときの扱いも決め、始める前に了承を得ます
  • 同じ計画のまま途中で基準を変えてよいのは、前提が変わったときだけです。変えるかは結果を見る前に決め、前の基準と新しい基準を並べて記録に残します
  • 止めると決めたら、どの条件に当たり、始める前の見込みのどれが外れたかを記録に残し、技術と知見を次に使える形にします

新規事業を始めた後、続けるか、変えるか、止めるかを、いつ、何を見て決めるかで迷うことがあれば、ご相談ください。当社は、製造業の事業戦略・新規事業開発・業務改革を支援するコンサルティング会社です。決めて終わりにしない。実行の途中の判断まで、一緒に見直します。新規事業を始めると決めるときに、見直す節目と、そのとき見る事実を、貴社と一緒に決めます。実行は貴社が担います。当社は、節目ごとに、貴社が用意した事実を確かめ、続ける・変える・止めるを比べて、勧める対応とその理由をお示しします。最後に決めるのは貴社です。節目と条件を決める表の作り方は、貴社の部署に残り、次の新規事業でも自分たちで使えるように設計しています。実行の途中の判断の支援は、サービスのページの「実行段階の意思決定」で紹介しています。

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