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「AI人材が足りない」の正体|不足しているのは研究者ではありません

公開 2026-08-19

「AI人材が足りない」。技術部門でこの言葉が出たとき、次の一手はたいてい研修か採用に向かいます。しかし、その前に確かめておきたい数字があります。IPAが2026年7月30日に公表した「DX動向2026」(回答1,782社)で、「不足している」と答えた割合が最も低かったのは、AI研究者の39.1%でした。最も高かったのはデータマネジメント人材の71.9%、次いで現場を動かす推進役の69.6%です。

つまり多くの会社で足りていないのは、AIを作る人ではなく、現場とデータをつなぐ人でした。

ここを取り違えると、打ち手がまるごとずれます。作る人が足りないと考えれば、答えは「育てる」か「採る」になります。しかしつなぐ人が足りないのであれば、人を増やす前に、増やさずに済む形を作れないかを先に検討できます。この記事では、不足の中身を3つに分ける方法と、人を増やす前に打てる手を整理します。

AI人材が足りないと感じるとき、実際に不足しているのはどれか

まず、ひとかたまりになっている言葉を分けます。IPAの調査は、AIに関わる人材を役割ごとに聞いています。「不足している」と答えた割合は、次のとおりです。

役割どういう人か「不足している」割合
データマネジメント人材社内のデータを集め、整え、使える形にしておく人71.9%
現場推進役現場の業務を分かったうえで、使い方を決めて定着させる人69.6%
AI研究者モデルやアルゴリズムそのものを作る人39.1%

出典: IPA「DX動向2026」2026年7月30日公表(本体p.63 図表4-12・回答1,782社)

製造業等では、さらに深くなります。同じ調査で、データマネジメント人材73.7%・現場推進役71.6%という結果でした。

数字を読むときの注意: この調査の「製造業等」は、農業・林業・漁業・鉱業・建設業・製造業・電気ガス水道業をまとめた広い区分です(回答735社)。「製造業の73.7%」と読むと実態より狭く取ってしまうため、建設業や電力なども含む区分だとご理解ください。

もう1つ、同じ調査で目を引く数字があります。経営層のAIへの理解が不足していると答えた割合は、製造業等で42.3%、情報通信業で14.1%でした。3倍の開きです。技術部門が社内で説明に苦労している感覚は、業種による差として実際に表れています。

自社の不足がどれかを言い分けるための3つの問い

自部門に当てはめるときは、次の3つを順に問うと分かれます。

  • 問1: 使いたいデータは、いま人手で探さずに取り出せますか
  • 取り出せないなら、不足しているのはデータを整える人です
  • 図面・仕様書・過去のトラブル記録が、担当者の記憶とローカルフォルダに散っている状態がこれに当たります
  • 問2: 使い方を決めて、現場に定着させる担当が決まっていますか
  • 決まっていないなら、不足しているのはつなぐ人です
  • 「情報システム部門が導入し、技術部門が使い方を考える」という分担のまま、誰も決めていない状態が典型です
  • 問3: 自社でモデルそのものを作る必要が、本当にありますか
  • 必要がないなら、作る人の不足は自社の問題ではありません
  • ここに人と時間を投じる判断は、上の2つを埋めてからでも遅くありません

3つのうち、問1と問2に「いいえ」が付くなら、研修の追加は的を外します。足りないのは知識ではなく、探せる状態と、決める人だからです。

教育を足す前に、参照を設計する

現場に求められる知識が急に増えたとき、打ち手は2つに分かれます。

  • 教育で埋める: 全員に覚えてもらう。費用は「人数 × 時間」で増えます。人が入れ替わればまた同じだけかかります
  • 参照で埋める: 覚えていなくても、うろ覚えから辿り着ける形を作る。対象が増えても費用が伸びにくいのが違いです

当社は、まず後者を検討することをお勧めしています。理由は費用の増え方が違うからです。担当者が10人から100人になったとき、教育は10倍かかりますが、参照の設計は同じ仕組みを使えます。

参照を設計するときに、対象から外してはいけないもの

ここで多くの取り組みが取りこぼすのが、製品情報以外です。

現場が判断を止めるのは、製品仕様が分からないときだけではありません。「この工事は法令上どう扱うのか」「社内規定ではどこまで認められるのか」で止まります。製品資料だけを検索できるようにしても、止まる場所は残ります。

外部の実例で、ここまで含めて設計したものがあります。アズビル(計測・制御機器の大手)のサービス本部の例です(公開されている導入事例より)。

  • 事業が建設工事の領域まで広がり、現場担当者に求められる知識が増えたことが出発点でした
  • 横断検索の対象にしたのは、製品仕様書・取扱説明書・スペックシートに加えて、建設業法や下請法などの法令・社内規定・業務標準・教育資料まで
  • 試行時は約30名、その後は約1,000名規模が使える環境になりました
  • 利用者の言葉として公表されているのは「『あの辺の資料に書いてあった』というレベルの記憶でも、関連資料へアクセスしやすくなった」というものです

効果の数字について正直に書きます: この事例では、検索時間の短縮率や満足度といった定量的な効果は公表されていません。当社が「検索時間が何割減る」と申し上げないのは、この種の取り組みでその数字が公表されている例がほとんどないためです。測れないものを、測れるかのように書かないことを社内の決まりにしています。

置き場を作っただけでは、知識は増えません

参照を設計するとき、もう1つ落とし穴があります。箱を用意しただけでは、中身が集まらないという問題です。

別の実例があります。日揮グローバル(プラントのエンジニアリング会社)が、設計・調達・建設の各段階で蓄積したトラブル事例を、ノーコードのデータベース基盤に集約しました。横浜本社の計装グループ約80名と、世界各地の設計拠点・海外建設現場の駐在社員が、ネット環境があればアクセスできる形です。あわせて「フラッシュレポート」という、現場が自分で短く報告を登録できる機能も用意されています。

結果として公表されているのは、導入後1年間で自発的に登録されたレポートが約30件という数字です。

この数字は、目標設定の場で先に共有しておく価値があります。約80名が1年かけて約30件。自発的な登録は、放っておけばこの程度しか出ません。「全員が知見を書き込む文化を作る」という目標を置いて未達に終わるより、年に数十件という現実的な水準から設計を始めるほうが、続きます。

そして、当社はここを別の角度からも見ています。登録が進むかどうかは、箱の性能ではなく、書き込む理由があるかどうかで決まります。

  • 書き込む理由が無い状態とは
  • 登録しても、自分の仕事が楽にならない
  • 登録の様式が重く、報告書を1本書くのと同じ手間がかかる
  • 登録しなくても誰にも困られない
  • 理由を作るとは
  • 登録した人が最初に得をする形にする(次に同じ問題に当たったとき、自分が真っ先に助かる)
  • 入り口を軽くする(項目を減らす。清書を求めない)
  • 参照される回数を見えるようにする(自分の書いたものが誰かの役に立ったと分かる)

箱と理由は、セットで設計してはじめて動きます。

AI人材の不足を、稟議で通る形に言い換える

ここまでを、技術部門の部長・課長が明日から使える形にまとめます。社内の議論を「人を増やすか否か」から動かすための3つの手順です。

1. 「AI人材が足りない」を、3つに分けて言い直す

  • 「データを整える人が足りない」「使い方を決めて定着させる人が足りない」「モデルを作る人が足りない」のどれなのかを、自部門の言葉で1文にします
  • ここを分けずに稟議へ出すと、決裁側は「研修予算」として読みます。分けて出せば、議論の対象が変わります

2. 人を増やす案と、参照を設計する案を並べて出す

  • 比べるのは初期費用ではなく、対象が増えたときの増え方です
  • 「担当が10人から50人になったとき、それぞれいくらになるか」を並べると、決裁側が判断できる形になります

3. 効果は、測れるものだけを書く

  • 「検索時間が何%減る」と書かないことをお勧めします。前述のとおり、公表されている実例がほとんどなく、後から検証できないためです
  • 代わりに置けるのは、「バックオフィスへの問い合わせ件数」「判断を止めずに済んだ回数」「新任者が独り立ちするまでの日数」のように、自社ですでに数えているか、数え始められる数字です

この3つは、AIを導入するかどうかとは独立して使えます。扱っているのは、知識をどう配るかという設計の問題だからです。

まとめ

  • 「AI人材が足りない」の中身を分けると、最も足りていないのは作る人ではありません。IPAの調査(2026年7月30日公表・1,782社)で、不足していると答えた割合はAI研究者39.1%に対し、データマネジメント人材71.9%・現場推進役69.6%でした
  • 足りないのは、現場とデータをつなぐ人です。ここを取り違えると、研修や採用という打ち手にまっすぐ進んでしまいます
  • 人を増やす前に、参照を設計できないかを先に検討してください。教育は人数に比例して費用が増えますが、参照の設計は増えた範囲に対して伸びにくいためです
  • 参照の対象に、法令・社内規定・業務標準まで入れてください。製品資料だけでは、現場が止まる場所が残ります
  • 箱を作るだけでは中身は集まりません。書き込む理由(登録した本人が最初に得をする形)を同時に設計してください
  • 効果は測れるものだけを書いてください。当社は「検索時間が何割減る」とは申し上げません。公表されている実例がほとんどなく、後から確かめられないためです

技術部門の判断を、外から一緒に整理します。 株式会社Labz.は、製造業の技術部門(研究開発・生産技術・技術企画)の外部参謀として、答えの見えない技術テーマを論点・仮説・ファクトに分解し、意思決定できる状態まで伴走しています。「AI人材が足りない」が自社ではどの不足を指しているのか、その切り分けからご相談いただけます。

いま止まっているテーマは、ありますか。

初回は、相談したいテーマと現状のお悩み、テーマの推進に掛けられる予算規模の2つを一緒に確認します。「まだ相談する段階か分からない」という状態でも構いません。

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