経済安全保障への製造業の対応|部材の洗い出しから始める3つの判断
公開 2026-10-14
製造業の会社で、経営企画・調達・技術などの部署の部長・課長が、社長から「経済安全保障への対応方針を、年内に経営会議へ出してほしい」と頼まれたとします。最初に詰まるのは、部材の仕入れが止まったとき、自社のどの製品が影響を受けるのかという問いです。調達部門は仕入れ先の一覧を、法務部門は制度の資料を集めます。けれども、どの部材がどの製品のどこに使われ、別の材料や部品に替えられるか、替えるのに何か月かかるかは、それだけでは分かりません。設計や生産技術などの技術の部署(以下、技術部門)の答えが要ります。
経済安全保障への製造業の対応で、先に決める判断は次の3つです。どれも、技術部門の答えが要ります。
- 特定重要物資(半導体や蓄電池など、国が指定した物資)に当たる部材と、仕入れ先が限られる部材を、部品表(製品を作るための部材と数量の一覧)で洗い出し、備える順番を決める
- 備え方(仕入れ先を増やす・在庫を積む・別の材料や部品に替える・自社で作る)を、いつまでに備えが要るかを先に決めてから比べて選ぶ
- 特定重要物資やその部品を作る設備に投資するなら、まず助成が無くてもその投資をするかを決め、そのうえで国の認定(供給確保計画)と助成を使うかを決める
この記事を書いている株式会社Labz.(以下、当社)は、製造業の会社が技術の関わる判断をするときに、社外から一緒に進める会社です。当社は2026年10月14日に、「経済安全保障 製造業 対応」の3語でGoogle検索しました。1ページ目に出た9件のうち、官庁の資料2件はPDFで読み込めず、残りの7件を読みました(日本経済新聞の記事は、無料で読める冒頭だけを読みました)。読んだ7件には、代わりの仕入れ先を確保することや、品目ごとに代わりがあるかを一覧にして確かめることに触れた記事はありました。けれども、別の材料や部品に替えるときに要る、設計の変更や性能の評価の仕事を書いた記事はありませんでした。制度の期限(法律の施行日や国の公募の締め切りなど)から逆に数えて、いつまでに何を決めるかを書いた記事もありませんでした。1件だけ、供給が止まったときに何日で供給を回復させるかの目標から逆に数えて、備え方を選ぶ考え方を1文で書いた記事がありました。読んだ範囲では、7件のどれにも「技術部門」「部長」「課長」「部品表」という語は出てきませんでした。
この記事では、国の制度と、製造業の対応の現状を確かめたうえで、上の3つの決め方を順に示し、最後に技術の流出への備えに触れます。
経済安全保障とは|製造業に関わる国の制度
国の安全を経済の面から守る取り組みの中心になる法律は、2022年5月に成立した経済安全保障推進法(正式名は「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」)です。内閣府の説明では、この法律の制度は次の4つから始まりました。
| 制度 | 中身(内閣府の説明の要約) | 製造業との関わり |
|---|---|---|
| 重要物資の安定的な供給の確保 | 国が「特定重要物資」を指定し、作る会社の生産の基盤づくりや備蓄などの取り組みを支援する | 部材を仕入れて使う会社と、作る会社の両方に関わる |
| 基幹インフラ役務の安定的な提供の確保 | 電気・ガス・通信などの事業者が重要な設備を入れるときなどに、国が事前に審査する | 基幹インフラの事業者に設備を納める会社に関わる |
| 先端的な重要技術の開発支援 | 国が、安全保障に関わる先端の技術の研究開発を支援する | 研究開発の部署に関わる |
| 特許出願の非公開 | 安全保障上の配慮が要る発明の特許出願を、国が公開しない | 特許を出す部署に関わる |
特定重要物資は、2026年10月時点で16の物資です。
- 2022年12月に指定された11物資:抗菌性物質製剤/肥料/永久磁石/工作機械・産業用ロボット/航空機の部品/半導体/蓄電池/クラウドプログラム(クラウドのサービスの基盤になるソフトウェア)/天然ガス/重要鉱物/船舶の部品
- 2024年2月に加わった1物資:先端電子部品(コンデンサーと、電気信号から必要な周波数だけを通すろ波器)
- 2025年12月に加わった4物資:人工呼吸器/無人航空機/人工衛星/ロケットの部品
この法律は、2026年6月に改正されました(6月17日公布)。改正では、国の安全保障の上で重要な海外の事業を、国際協力銀行(JBIC)の出資などで支援する新しい制度なども加わりました。製造業にとって大きいのは、重要物資の制度の見直しで、2026年9月18日に施行されました。
- 特定重要物資を作る会社だけでなく、特定重要物資の供給を受ける会社(部材として仕入れて使う会社など)も、安定した供給のために、国や作る会社と連携して協力するよう努めることが定められました
- 供給に支障が出るおそれがあるとき、国(所管の大臣)は、供給を受ける会社を含む広い関係者に、資料や情報の提供、状況の説明などの協力を求められるようになりました
特定重要物資を部材として仕入れて使う会社も、国から協力を求められることがある立場になりました。当社は、どの製品のどの部分に特定重要物資を使っているかを、まとめておくことを勧めます。協力を求められたときに、答えるまでの時間が短くなるからです。
製造業の経済安全保障への対応は、どこまで進んでいるか
国は2026年5月に「2026年版ものづくり白書」を公表しました。白書によると、経済安全保障に関わる取り組みを1つ以上行っている製造事業者は、2025年度の調査で55.6%(回答3,025社)でした。2024年度の調査では38.2%(回答3,007社)で、白書は約4割から約6割へ上がったと書いています。取り組みの中身(複数回答)では、回答した3,025社のうち30.7%が「情報管理体制やサイバーセキュリティの強化」を、27.2%が「部素材調達先の変更や多元化」を行っています。
一方で、調達先を実際に変えるところまで進んだ会社は、まだ少ないという調査もあります。経済産業研究所(RIETI)は2025年4月に製造業の会社へ調査を行い、1,855社から有効な回答を得ました。海外から調達している1,049社の内訳は、調達先(仕入れ先)を変えていない会社が834社(約8割)、見直しを検討中の会社が171社、変えた会社(国内や別の国への変更など)が15社、その他が29社でした。白書の調査とRIETIの調査は、時期も、設問も、対象の会社も違うため、そのまま比べることはできません。
取り組みは広がり始めました。けれども、部材の調達を実際に変えるには、代わりの部材を評価し、お客様の承認を取る仕事が要ります。その仕事には、技術部門の答えが欠かせません。
経済安全保障への対応で、技術部門の答えが要る3つの判断
次の3つの判断には、技術部門の答えが要ります。どの部材がどの製品のどこに使われているか、別の材料や部品に替えられるか、替えるのに何か月かかるかは、製品の設計と製造を知る技術部門が答えるからです。会社によっては、この3つの判断の窓口を、調達や品質保証の部署が務めます。その場合も、技術部門が答えを出す時間を、対応方針を検討する日程に入れておきます。
1. 備えが要る部材を部品表で洗い出し、備える順番を決める
最初に、自社の製品に使っている部材のうち、特定重要物資そのものや、その原料・部品に当たるものを洗い出します。指定されていない部材でも、仕入れ先が1社や1つの国に限られるものは、洗い出しの対象に加えます。止まったときに困るのは、指定された物資だけではないからです。
調達部門の仕入れ先の一覧だけでは、その部材がどの製品のどこに使われているかまでは分からないことがあります。部品表を持つ技術部門が、仕入れ先の一覧と突き合わせます。
洗い出しでは、部材ごとに次の4つを1枚の表にします。
- その部材を使っている製品と、その製品の売上の大きさ
- 直接の仕入れ先の数と、その工場がある国(仕入れ先のさらに先の仕入れ先は、調達部門が別に調べる)
- いまの在庫で、何か月生産を続けられるか
- 別の材料や部品に替えられるか。替えられるなら、性能の評価とお客様の承認に何か月かかるか
表の1つ目の項目のうち、製品は部品表から、売上は営業部門の数字から埋まります。2つ目と3つ目の項目は、調達部門の数字から埋まります。4つ目の項目は、技術部門が答えを出す欄です。
この表を使い、止まったときに影響する売上が大きい部材や、在庫が早く尽き、替えるのにも時間がかかる部材から、備える順番を決めます。
2. 備え方を、間に合う時期と費用で比べる
洗い出した部材ごとに、備え方を選びます。備え方は、大きく分けて次の4つです。
| 備え方 | 技術部門の仕事 | 時間や費用がかかるところ | 向いている部材 |
|---|---|---|---|
| 仕入れ先を増やす | 新しい仕入れ先の部材を評価する | 新しい部材の評価、お客様への仕入れ先の変更の届け出、新しい仕入れ先に図面を渡す前の秘密保持の契約、仕入れ先が国外なら図面の提供が輸出の規制(外国為替及び外国貿易法)に当たるかの確認 | 同じ規格の部材を作る会社が、ほかの国にもある |
| 在庫を積む | 保管の条件を確かめる | 置き場所の確保と、在庫として寝かせる資金 | 劣化しにくく、使う量が読める |
| 別の材料や部品に替える | 代わりの材料や部品を探して評価し、設計を変える | 開発と信頼性の評価、お客様の承認、製品によっては法令の認証の取り直し | 仕入れ先が1つの国に集まり、ほかに手が無い |
| 自社で作る | 製造の技術を立ち上げ、設備の仕様を決める | 設備の導入と、量産の立ち上げ | 使う量が多く、作る技術を社内に持っている |
比べるときは、費用より先に「いつまでに備えが要るか」を決めます。例えば、仕入れ先の国で輸出の規制が強まり、半年後には部材が届かなくなるおそれがあるとします。半年後までに整わない備え方は、それだけでは候補から外します。ただし、在庫を積んで半年より先までつなぎ、その間に別の材料や部品を評価するように、組み合わせれば間に合うことがあります。
制度の期限も、決める日を左右します。自社で作る備え方で国の助成(3つ目の判断で述べる、認定を受けた計画への助成)を使うなら、申請の締め切りまでに、作る部材と量を決めておく必要があります。期限が無いなら、自分たちで期限を決めます。技術部門では、期限の無い検討は、優先の高い開発の仕事に押されて止まりやすいからです。
3. 国の認定と助成を使う投資にするかを、使わない場合と分けて決める
自社が特定重要物資やその部品を作る側なら、作るための設備や研究開発に投資するとき、国に「供給確保計画」を出して認定を受けると、助成や融資などの支援を受けられます。内閣府によると、認定された計画は2026年10月9日時点で167件、計画ごとの助成の上限額を合計すると約1.81兆円です。物資別では、蓄電池が42件、半導体が30件、航空機の部品が19件、船舶の部品が18件で、残りの58件は肥料・重要鉱物・クラウドプログラムなど10の物資です。「人工呼吸器」と「ロケットの部品」の2物資には、認定された計画はまだありません(2026年10月9日時点)。
投資を決めるのは経営ですが、その判断には技術部門の見積もりが要ります。当社は、次の順に進めることを勧めます。
- 助成が無くても、その設備や研究開発への投資をするかを決める
- 助成が無くても投資すると決めたなら、助成を使って時期を早めるか、規模を大きくするかを決める
- 助成を使うなら、認定を受ける計画を実行するために、技術部門の人と設備の時間を何年分使うかを、技術部門が見積もる
1で「助成が無ければしない」となった投資を、それでも助成があるからと進める場合は、特に慎重に見ます。助成が終わったあとも、その設備を使う事業を自社の資金で続けられるかを、経営が技術部門の見積もりをもとに確かめます。
守る技術を決める|技術の流出への備え
国の制度には、物資の確保のほかに、技術に関わるものもあります(上の表の「先端的な重要技術の開発支援」と「特許出願の非公開」)。一方で、自社の技術が国外へ流れ出ることへの備えは、法令が求める最低限(輸出の規制や、営業秘密の保護など)を満たしたうえで、それ以上どこまで守るかを会社が決めることです。白書の調査では、「自社のもつ重要技術や秘匿すべき技術の特定と管理強化」を行っている会社は、回答した3,025社の10.5%でした(2024年度の調査では、回答した3,007社の14.5%)。
技術の流出の対策について、MONOistが2026年10月7日に公開したインタビュー記事は、PwC Japan有限責任監査法人の雨宮弦太氏と西田昂生氏に話を聞いています。記事によれば、2人が所属する部署は、技術の流出の対策を支援するサービスを立ち上げています。
記事は、技術を記した設計書・データ・手順書など(以下、技術情報)をすべて一律に最も厳しく管理すると、管理のコストが膨らみ、業務の効率や開発の速さが落ちるおそれがあると説明しています。そこで記事が示す手順は、次のとおりです。最初に、自社が守る技術を決めます。次に、その技術の技術情報が、社内のどこに、誰がアクセスできる状態で保存されているかを洗い出します。そのうえで、洗い出した技術情報ごとに、流出した際のリスクを評価し、管理のレベルに差を付けます。
記事は、製造業の技術を「材料や素材に関する技術」「製造/加工プロセスの技術」「評価/テスト/シミュレーションの技術」「品質/解析技術」の4つに分けています。そのうえで、どの技術をどう管理するかを見える形にすることが大事だと述べています。
当社は、守る技術を決める作業には、技術部門の判断が欠かせないと考えます。自社のどの技術が競争力の源になっているかを、社内でいちばんよく知っているのは技術部門だからです。例えば、上の4つの分類ごとに、自社の競争力の源になっている技術を技術部門が書き出すと、守る技術の候補になります。そのうえで、どこまで費用をかけて守るかは、経営と知的財産の担当も入って決めます。
まとめ
製造業の経済安全保障への対応には、調達や法務の部署が集めた情報だけでは決まらない判断があります。どの部材を替えられるか、替えるのに何か月かかるか、どの技術を守るかには、技術部門の答えが要るからです。
- 特定重要物資や、その原料・部品に当たる部材と、仕入れ先が1社や1つの国に限られる部材を、部品表で洗い出す。部材ごとに、使っている製品とその売上、直接の仕入れ先の数と国、在庫で生産を続けられる月数、別の材料や部品に替えられるかと替えるのにかかる月数を1枚の表にし、備える順番を決める
- 備え方(仕入れ先を増やす・在庫を積む・別の材料や部品に替える・自社で作る)を、いつまでに備えが要るかを先に決めてから比べて選ぶ。間に合わない備え方は、それだけでは外し、組み合わせて間に合うかを見る
- 特定重要物資やその部品を作る設備に投資するなら、まず助成が無くてもその投資をするかを決め、そのうえで国の認定と助成を使うかを決める
あわせて、守る技術の候補を技術部門が挙げ、経営と知的財産の担当も入って、技術情報ごとに管理のレベルに差を付けます。
どの部材から洗い出し、どう備えるかを決めかねているときは、製造業の技術関連テーマの外部参謀(社外から、技術が関わる判断を一緒に進める相談役)である株式会社Labz.にご相談ください。製造業の技術が分かる当社の経験者が、ほかの人に任せず自分で担当して意思決定まで一緒に進め、決めるまでの進め方が御社の部署に残るように設計しています。
いま止まっているテーマは、ありますか。
初回は、相談したいテーマと現状のお悩み、テーマの推進に掛けられる予算規模の2つを一緒に確認します。「まだ相談する段階か分からない」という状態でも構いません。
