製造業の内製化の判断基準|範囲より先に決めるのは、決裁と予算です
公開 2026-09-17
内製化の判断基準を社内で並べたのに、会議が決まらないまま終わる。コストも、品質も、納期も、技術が自社に残るかどうかも、ひととおり比べたはずなのに前へ進まない。この記事の結論を先に書きます。足りないのは基準の数ではなく、「誰の決裁で買えるか」と「どの費用がどの予算から出るか」の2つです。 決裁と予算の2つが決まっていないと、どちらが良いかの議論は最後まで結論に変わりません。
本日2026年9月16日、この語で検索したときに上位に出る記事の本文を機械で数えました。「決裁」「稟議」「職務権限」「承認権限」が出てくる記事は、読めた8本のうち0本でした。「予算科目」「費目」「研究開発費」「事業部予算」も0本です。 世の中の解説が悪いのではありません。扱っている問いが、技術部門の会議で実際に詰まる場所とずれているだけです。
なぜ内製化の判断基準を並べても決まらないのか
上位の記事が置いている基準は、おおむね4つに収まります。
| よく置かれる基準 | 問い |
|---|---|
| コスト | 自社でやるのと外に出すので、どちらが安いか |
| 品質・技術 | 求める精度や難易度に、自社の設備と人が届くか |
| 納期・量 | 変動する量に、自社の能力で応えられるか |
| 技術の蓄積 | その技術を自社に残したいか、残さなくてよいか |
どれも要ります。ただ、コスト・品質・納期・技術の蓄積の4つはすべて「自社でやる」と「外に出す」のどちらが優れているかを比べる問いです。比べた結果に差が出ても、買い方が決まらなければ動けません。
技術部門の会議で実際に止まるのは、次のような場面です。
- 外に出すほうが速いと分かったのに、その金額が自分の決裁で通らない
- 通る金額に収めたのに、その費用がどの予算から出るのか誰も言えない
- 予算は取れたのに、契約の形(委託か、請負か、派遣か)で所管する部署が変わり、話が止まる
これらは「内製か外注か」の答えではなく、買い方の話です。そして買い方は、会議で比べても出てきません。規程と予算表を見に行かないと分かりません。
内製化の判断基準に、決裁と予算の2つを足す
先ほどの4つに、次の2つを足します。足すのは基準ではなく、確かめに行く場所です。
| 足す2つ | 確かめること | どこを見るか |
|---|---|---|
| ⑤誰の決裁で買えるか | 金額の階段だけでなく、契約の類型でも決裁者が変わることがある。自社の役務がどの費目に入り、その金額を誰が決裁するか | 自社の職務権限規程・購買規程 |
| ⑥どの予算から出るか | その費用が事業部の予算か、DXの予算か、研究開発費か。話す相手と、予算を持っている部署は別のことがある | 予算編成の資料・費目の一覧 |
⑥が効くのは、当社が実際に見てきたからです。 当社がこれまでご一緒した6社について、費用がどの予算から出ていたかを数えると、事業部予算が4社、DXの予算が1社、研究開発費が1社でした。技術部門そのものの予算から出ていたのは6社中1社です。
⚠ この6社は当社の実績であって、日本の製造業の平均ではありません。 持ち帰っていただきたいのは割合ではなく、「技術のテーマなのに、予算は技術部門の外にあることがある」という形のほうです。相談する相手と、稟議を書く人と、予算を持っている人が別々なら、先に3人を特定しないと、判断基準をいくつ並べても会議は終わりません。
決裁の重さを金額だけで見ないほうがよい理由は、設備投資の稟議の書き方で、公開されている社内規程の逐語とあわせて書いています。
AIで内製にできたのは、判断ではなく前処理でした
ここ1年、内製化の話が急に動いたのは生成AIが理由です。ただし、内製にできた範囲は限られています。
2026年9月15日、フリーランスのコンサルタントと企業をつなぐGroovementが、2026年7月に実施した「第3回コンサルティング活用実態調査」を公表しました。対象は、従業員1,000人以上の企業で、自身の権限でコンサルティング会社への発注経験を持つ課長相当職以上の344名です。
- 直近1年以内に発注経験がある212名のうち、コンサルタントの質が「非常に上がった」32%、「やや上がった」45%で、合計約77%
- 同じ212名のうち、「既に一部の業務を内製化し、発注を減らした」30%、「今後1年以内に内製化し、発注を減らす具体的な計画がある」47%で、合計約77%
- 一方、直近1年間の発注予算については、「予算を増やした」が27%で最多(「相見積もりや値引き交渉を行うようになった」26%、「成果報酬型など、リスクを伴う契約形態を求めるようになった」13%)
同じ母数で、質が上がったと答えた割合と、発注を減らすと答えた割合が、どちらも77%で並んでいます。 そして予算は減っていません。
リリースは、内製にできた範囲をこう書いています。「これまで外部に頼っていた情報収集や構造化、基礎的なアウトプット作成が、AIの活用により自社内で完結できるようになってきた」(原文のまま)。残っている範囲についてはこう書いています。「新規事業の創出や全社的な戦略策定といった経営の根幹に関わる高度な課題解決には、依然として外部の専門知見やリソースを頼らざるを得ない」(原文のまま)。
⚠ この調査の出し手は、フリーランスのコンサルタントを企業へつなぐ事業を営む会社です。 「大手ファームからフリーコンサルへ」という結論は自社の事業に沿う向きなので、そのまま受け取らないでください。ここで使っているのは、同じ母数で2つの割合が並んでいるという事実の部分だけです。
当社の案件でも、同じ形を見ています。産業機械のエンジニアリング会社で、システム設計を伴う営業提案業務の効率化をご一緒しました。困っていたのは「条件が近い過去案件を探せない」ことで、図面は公開されているのに検索できず、参考案件を見つけられるかどうかで工数が倍近く変わっていました。
- Phase1では1部署で、約50案件のデータベースを試作し、サンプル6案件のうち5案件で、営業担当が持てる情報から適切な参考案件を特定できることを実証しました
- Phase2では3部署へ広げ、1,000行を超える案件リストの自由入力欄まで検索できることを実証しました
- 受注見積までの工数は約46%削減できる「見込み」を定量化しました。⚠ これはFS時点の試算で実測値ではなく、現地調査の工数は含みません。本格導入と全社展開は、この時点では行っていません
この案件でAIが引き受けたのは「探す」ところです。 効いたのはAIの能力より、AIに入れる前の表の構造化でした。「どの案件を参考にするか」を決める判断は、最後まで人が持ったままです。
⭐内製にできるのは作業であって、判断ではありません。 内製化の範囲を決めるときは、「その仕事は作業か、判断か」で切ると線が引けます。
内製をやめて、外に戻す条件を先に書いておく
上位8本の本文を数えたところ、内製をやめる・外に戻すことに触れていた記事は1本だけでした。始め方は詳しく書かれていますが、やめ方はほとんど書かれていません。
当社は、内製化を決める同じ会議で、次の3つを書いておくことをお勧めしています。⚠ ここは実測にもとづく数字ではなく、当社の進め方の提案です。
- 人が抜けたとき=その仕事を回せる人が何人いるかを数え、1人しかいないなら、その1人が抜けた時点で外へ戻すと決めておく
- 量が変わったとき=内製が成り立つ量の範囲を書いておき、上振れも下振れもその範囲を出たら見直す
- 目的が変わったとき=内製にした理由(費用を下げる/技術を残す/速くする)を1つに絞って書いておき、その理由が消えたらやめる
人・量・目的の3つを先に書く理由は、あとから書けないからです。 内製にしたあとで「やめる条件」を持ち出すと、担当者の評価の話に聞こえます。決める日に、決めた人が書いておくのが、いちばん角が立ちません。
同じ考え方は、研究開発のテーマにも当てはまります。降りる条件を先に置く話は研究開発テーマの絞り込みと撤退基準に書いています。
まとめ
- 内製化の判断基準が決まらないのは、基準の数が足りないからではありません。コスト・品質・納期・技術の4つは、どちらが優れているかを比べる問いで、買い方の問いが入っていません
- 足すのは⑤誰の決裁で買えるか(金額だけでなく契約の類型でも決裁者が変わる)と、⑥どの予算から出るか(当社の実績6社では、技術部門の予算から出ていたのは1社)の2つです
- AIで内製にできたのは作業です。判断は残ります。調査では、質が上がったと答えた割合と発注を減らすと答えた割合がどちらも約77%で並び、予算は減っていません
- 内製をやめて外に戻す条件を、決める日に書いておいてください。上位8本のうち、やめ方に触れていたのは1本だけでした
外部に出す範囲を決めるときの相手の選び方は、技術コンサルの選び方|稟議で迷わない3つの質問にまとめています。
内製と外注の線を引く前に、決裁と予算の2つを社内で特定するところから、ご一緒することがあります。当社は実装を受注しません。 何を自社に残すかの判断だけをご一緒し、考え方と成果物は御社に残します。
いま止まっているテーマは、ありますか。
初回は、相談したいテーマと現状のお悩み、テーマの推進に掛けられる予算規模の2つを一緒に確認します。「まだ相談する段階か分からない」という状態でも構いません。
