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製造業の設備投資の判断基準|回収年数は1つの数字で出さない

公開 2026-09-25

設備投資の判断基準を調べると、「回収年数(投資した額を何年で取り戻せるか)は3〜5年が目安」という説明が多く見つかります。ただ、中堅・大手の製造業で技術部門が設備投資を起案する場合、何年を基準にするかは、起案する人が決めるとは限りません。会社の規程や、経営企画・財務の部門が先に決めていることがあり、その場合に起案する人に求められるのは、決裁する人(起案された投資をするかどうかを決める人)がその基準に照らして判断できる材料を揃えることです。

この記事の結論を先に書きます。

  1. 起案の前に、自社の設備投資の判断基準と、回収年数の計算の決まりを確かめる
  2. 回収年数は1つの数字で出さず、効果を種類ごとに分け、それぞれの効果が出るための前提を書く
  3. どの前提がどこまで外れると基準の年数を超えるかを計算し、回収年数と並べて書く

この記事を書いている株式会社Labz.(以下、当社)は、2026年9月25日に「製造業 設備投資 判断基準」でGoogle検索し、上位に出た9本の記事を読みました。9本の記事のうち8本は、回収年数などの計算の方法をよく整理しています。一方で、「部長」「課長」「技術部門」「経営会議」「規程」という語は、9本とも本文に一度も出てきませんでした。 上位9本の記事の多くは、経営者が自分で基準を決めて判断する場面を想定して書かれています。稟議の通し方に触れた記事も2本ありましたが、会社の基準を確かめる手順までは書いていません。この記事では、会社の基準に照らして起案する技術部門の立場から、回収年数の使い方を補います。

設備投資の判断基準に使われる4つの計算と、回収年数の目安

設備投資をするかどうかの判断に使われる計算は、主に次の4つです。

計算答える問い弱いところ
回収年数(回収期間法)投資した額を、何年で取り戻せるか取り戻した後に出る効果を数えない。今のお金と数年後のお金を同じ価値として扱う
投資利益率(ROI)投資した額に対して、どれだけの利益が出るか(1年あたりで見るか、期間の合計で見るかは会社や記事によって違う)利益の数え方(減価償却の方法など)によって値が変わる
正味現在価値(NPV)将来に出る現金を今の価値に直して合計すると、投資した額を上回るか今の価値に直すための率(会社が投資に求める利回り)を決めないと計算できない
内部収益率(IRR)その投資の利回りは何%か。会社が投資に求める利回りを上回るか投資の規模の大きさが見えない

回収年数は計算が簡単で、「何年で元が取れるか」という形で誰にでも伝わるため、実務でよく使われます。上位9本のうち4本は、回収年数の一般的な目安として「3〜5年」を挙げていました。ほかに、業種によって違うとしたうえで、需要の安定した業種の例として「3〜5年」を挙げた記事が1本、「3年以内」を多くの中小企業の経営者が経験から置いている基準として紹介した記事が1本ありました。

ただし、これらの目安は、経営者が自分の会社の資金繰りを見ながら決める場合の数字です。会社の基準が別に決まっている場合、起案する人が一般的な目安を持ち込んでも、その基準と違えば使えません。

起案の前に確かめる、自社の設備投資の判断基準と計算の決まり

技術部門が設備投資を起案する前に、次の4つを確かめます。

確かめること例確かめる先
1. どの計算を使い、何年(何%)を基準にするか回収年数で3年以内、など設備投資の規程、経営企画や財務の担当者
2. 投資の種類によって基準が違うか生産を増やす投資、人手を減らす投資、古い設備の更新、安全や法令への対応で基準を分けている会社や、回収年数を問わない種類を設けている会社がある同上
3. 回収年数の計算の決まり効果を、税金を払う前の額で数えるか、払った後の額で数えるか/補助金を投資額から引くか/据え付けや立ち上げの期間の費用を投資額に入れるか財務の担当者、過去に通った設備投資の稟議
4. 誰が決裁するか金額と、何を買うか(購買か、工事か)によって、決裁する人が変わる職務権限規程

いちばん手早いのは、起案する技術部門で過去に通った設備投資の稟議を2〜3件開き、回収年数がどう計算されているかを見ることです。規程に書かれていない計算の決まりが、過去の稟議の計算の形に表れていることがあります。

補助金の扱いも、計算の決まりの1つです。設備投資に使える国の補助金には、中小企業を対象にしたものがあり、会社の規模によって対象になるかどうかが変わります。そのため、自社が対象になるかどうかと、対象になる場合に、補助金を引く前と後のどちらの投資額で基準と比べるかを、財務の担当者に確かめます。

4の決裁する人の確かめ方は、設備投資の稟議の書き方|差し戻される原因は、様式ではありませんで扱っています。

回収年数は、効果の種類ごとに前提を分けて書く

回収年数は、投資額を1年あたりの効果の額で割って出します。割られる側の投資額には、設備の本体の価格だけでなく、据え付けの工事、治具(加工のときに部品を固定する道具)、立ち上げの期間に生産が減ることで失う粗利も入れます。

割る側の効果の額は、種類の違う効果を足し合わせた数字です。そして、それぞれの効果が本当に出るかどうかは、別々の前提にかかっています。

効果の種類効果が出るための前提起案の前に確かめること
生産が増えることによる粗利の増加増やした分の注文が来る増える量の根拠(営業部門の見通し、顧客からの内示など)
人件費の削減作業する人が減るか、別の仕事に移る移る先の仕事と、移る時期
不良の減少新しい設備で不良率が下がる今の不良率の実績と、下がると見込む根拠(試しに加工した結果など)
電気やガスの使用量の削減使う量が減る今の使用量の実績と、設備の仕様の値

特に気をつけたいのが、人件費の削減です。ある工程の作業が1日2時間減っても、その作業者が同じ職場に残り、ほかの仕事が無ければ、会社が払う給料は変わりません。減った作業時間がお金の効果になるのは、その作業者が移る先の仕事が決まったときです。移る先が決まっていないうちは、効果の額には入れず、「空く作業時間」として別の行に書いておきます。分けて書いておくと、決裁する人は、どこまでが確かな効果かを見分けて判断できます。

どの前提が外れると基準の年数を超えるかを、回収年数と並べる

前提を分けたら、次に、それぞれの前提がどこまで外れると会社の基準の年数を超えるかを計算します。例で示します。数字はすべて、説明のために置いた仮の数字です。税金と減価償却は考えない、簡単な計算にしています。

ある部品の加工ラインに、1億円で自動化の設備を入れる案です。会社の基準は、回収年数3年以内とします。1年あたりの効果の見込みは、次の3つを足した4,000万円です。

  • 注文が増えることによる粗利の増加:2,400万円(増える注文が月5,000個、粗利が1個400円、12か月分)
  • 人件費の削減:1,200万円(作業者2名が別のラインへ移る。1人あたり年600万円)
  • 不良の減少:400万円(不良品になっていた分の材料と加工の費用が減る)

回収年数は、1億円÷4,000万円で2.5年です。基準の3年以内に収まります。では、前提を1つずつ動かすとどうなるでしょうか。

前提見込み基準の3年を超えるかどうか
増える注文月5,000個月約3,600個を下回ると超える(見込みの約72%)
別のラインへ移る作業者2名1名なら2.9年で、超えない。移る先が決まらず0名なら3.6年で、超える
不良の減少年400万円0円になっても2.8年で、超えない

この表から、2.5年という回収年数を左右しているのは、増える注文と、作業者の移る先の2つだと分かります。不良の減少は、見込みが外れても判断は変わりません。起案の前に確かめる手間は、注文の見通しと作業者の移る先に集中させます。

設備投資の稟議や経営会議の資料では、「回収年数2.5年」の横に、「増える注文が月約3,600個を下回ると、3年を超えます」と1行書きます。決裁する人は、「月約3,600個の注文は確かに来るか」という1つの問いに絞って判断できます。

例:効果の額を3通りの方法で出した造船会社の検討

判断を左右する前提は、1つの方法だけで見積もらず、別の方法でもう1通り出しておきます。当社がご一緒した検討の例を紹介します。設備投資ではなく、造船会社(船をつくるメーカー)が、海運会社向けに、船の航路を最適化するAIを新しい事業として立ち上げられるかを検討した段階の話です。事業化を決めた話ではなく、検討の途中の段階です。

この検討で当社は、AIを導入した海運会社が得る効果(燃料費の削減額)を、前提の置き方が違う3つの方法で試算しました。

  • 海運の二酸化炭素(CO2)の排出を減らす政策上の目標を、燃料の量に換算する方法:1隻あたり年間約500万円
  • ほかの会社の同じようなサービスの削減の割合を、燃料費の平均に掛ける方法:約800万円
  • 船の運航に詳しい実務家への聞き取り:約1,000万円

3つの方法で出した値は一致していませんが、同じ桁に収まりました。そこで、効果の見込みを「1隻あたり年間500万〜1,000万円」という幅で造船会社に報告しました。いずれも試算で、実際に測った値ではありません。

効果の試算が1本だけだと、判断する側から「その前提は違うのではないか」と言われた時点で、議論が止まります。置き方の違う方法で出した数字が同じ桁に収まれば、それ自体が、数字を信じてよい理由の説明になります。設備投資でも、増える注文のように判断を左右する前提は、営業部門の見通しに加えて、過去の注文の伸びなど別の方法でもう1通り出しておくと、決裁する人との話が前提の確かめ合いから先へ進みます。

回収年数を出しにくい投資は、何と比べて書くか

安全や法令への対応、取引先から求められた品質の要求に応える投資は、回収年数を出しにくい投資です。こうした投資は、回収年数の欄を空けたまま出すのではなく、「やらない場合に何が起きるか」と比べて書きます。

回収年数を出しにくい投資のうち、技術部門で多いのは、試作や評価のための設備です。研究開発の設備は、効果が出るのが製品として売れた後になるため、回収年数を出そうとすると、何年も先の売上まで前提を置くことになります。この場合は、回収年数の代わりに次の3つを書くと、決裁する人は判断しやすくなります。

  1. その設備で何を確かめるのか
  2. 確かめた結果を見て、いつ、誰が、何を決めるのか
  3. 確かめないまま次の段階へ進んで失敗したときに、失う額はいくらか

考え方は、PoCの成功基準と予算の決め方|始める前に、次の稟議に載る形で書くと同じです。

まとめ

  • 設備投資の判断基準は、起案する前に会社の側で決まっていることがあります。起案の前に、使う計算と基準の年数、投資の種類ごとの違い、回収年数の計算の決まり、決裁する人を確かめます
  • いちばん手早いのは、起案する技術部門で過去に通った設備投資の稟議を2〜3件開き、回収年数の計算の形を見ることです
  • 回収年数は1つの数字で出さず、効果を種類ごとに分け、それぞれの前提を書きます。人件費の削減は、作業者の移る先が決まるまで効果の額に入れません
  • どの前提がどこまで外れると基準の年数を超えるかを計算し、回収年数と並べて書きます。この記事の例では、判断を左右していた前提は2つでした
  • 判断を左右する前提は、別の方法でもう1通り出して、同じ桁に収まるかを確かめます
  • 研究開発の設備のように回収年数を出しにくい投資は、何を確かめ、確かめた結果を見ていつ何を決めるかで書きます

設備投資の起案で、前提の整理から、決裁する人に渡す資料の形までを考える場に、当社が加わることもできます。当社は設備の販売や工事、システムの開発を受注しません。 設備を売る会社とも利害の無い立場で、判断を左右する前提と、基準を超える点を一緒に整理し、考え方と成果物は御社に残ります。

出典

  • 当社による検索上位の本文の調査(2026年9月25日。「製造業 設備投資 判断基準」でGoogle検索し、上位9本の本文で語の出現回数を数えた)
  • 当社の案件ナレッジ(造船会社の新規事業の検討。事業化を決める前の検討の段階。数字はいずれも試算)

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