技術ロードマップの作り方|描けても動かない3つの分かれ目
公開 2026-08-26
技術ロードマップは、描き方ではなく決め方で成否が分かれます。図の形を整えることに時間を使っても、動く計画にはなりません。
一般社団法人日本能率協会が2024年9月から10月にかけて全国の製造業702社に行った調査に、既存事業の課題を解決するために現在取り組んでいる施策を聞いた設問があります。上位はDX・AI活用推進が51.7%、高効率設備の開発・導入が50.3%。「10年程度先まで見据えた製品・製造の技術ロードマップの策定」は32.5%で、6番目でした。そして同じ調査で、前期の中期経営計画について54.8%の企業が「達成していない」と答えています。
目の前の工程を良くする取り組みが上位に並び、10年先の道すじを引いている会社は3社に1社。計画は半数以上が未達に終わる。この記事は、その間に何があるのかを扱います。
技術ロードマップが「描けない」のではなく「決められない」
まず、数字を並べておきます。いずれも上記の日本能率協会の調査(回答702社)からの引用です。ただし、下の5行は3つの別々の設問への回答です。どの問いへの答えかを、右の列に書き添えました。
| 調査項目 | どの設問への回答か | 回答割合 |
|---|---|---|
| 取組課題に「技術革新による差別化」を挙げた | 前期の中期経営計画で掲げている取組課題(複数選択) | 48.0% |
| 「10年程度先まで見据えた製品・製造の技術ロードマップの策定」に取り組んでいる | 既存事業の課題を解決するために現在取り組んでいる施策(複数選択) | 32.5% |
| 「DX・AI活用推進」に取り組んでいる | 同上 | 51.7% |
| 「高効率設備の開発・導入」に取り組んでいる | 同上 | 50.3% |
| 前期の中期経営計画を「達成していない」 | 前期の中期経営計画の達成状況 | 54.8% |
設問をまたいで引き算をしないでください。たとえば上の表の1行目(48.0%)は掲げた課題を聞いた問いへの回答、2行目(32.5%)は現在の施策を聞いた問いへの回答です。「課題に挙げた企業のうち、これだけしか着手していない」という読み方はできません。
読み方を1つだけ添えます。ここから先は、同じ設問(現在取り組んでいる施策)の中での比較です。施策の上位に来ているのは、DX・AI活用推進(51.7%)や高効率設備の開発・導入(50.3%)といった、今ある工程を良くする取り組みです。10年先の道すじを引く取り組みは、それより18ポイント以上低い位置にあります。目の前の改善のほうが着手しやすいという、ごく自然な結果とも言えます。
では、なぜ着手しにくいのか。図を描く作業そのものは、実は難所ではありません。自社が持っている技術を棚卸しし、市場の動きを重ね、目標を置いて時間軸に並べる。この手順は多くの解説記事に書かれていますし、様式もテンプレートも手に入ります。
詰まるのは、そこではありません。技術ロードマップづくりが止まるとき、現場で起きているのはたいてい次の3つです。
1. いつの話をしているのかが、参加者の間で揃っていない。3年後の製品計画の話をしている人と、10年後の技術基盤の話をしている人が、同じ会議で同じ紙を見ている状態です。噛み合わないまま時間だけが過ぎます。2. やめる判断を、誰の権限で下すのかが決まっていない。ロードマップに線を引くとは、引かなかったものを捨てることです。ところが「どれをやめるか」を決める人が決まっていないため、結局すべてが残り、優先順位のない一覧表になります。3. 中期経営計画と別の紙になっている。技術部門の中だけで完結した図は、予算の議論に持ち込めません。年度の予算編成が始まると、根拠として使われるのは経営計画の紙のほうです。
3つに共通しているのは、どれも作図の問題ではないことです。決める順番と、決める人の問題です。
技術ロードマップの作り方|5つの手順と、各手順で実際に決めること
手順そのものは目新しいものではありません。そこで、一般的に語られる内容と、実務で本当に決めなければならないことを並べて示します。左の列だけを実行すると、冒頭の「描けても動かない」状態になります。
| 手順 | よく言われること | 実際に決めること | 決める人 |
|---|---|---|---|
| 1. 現状の棚卸し | 自社の保有技術を洗い出す | どの技術を「自社の強み」と呼ぶかの基準(他社もできることを強みに数えない) | 技術部門長 |
| 2. ゴールの設定 | 目指す姿を定量的に置く | 達成できなかったときに何を諦めるか(撤退の条件を先に書く) | 事業責任者 |
| 3. 技術と製品・市場の対応づけ | 市場・製品・技術を3層で並べる | 1つの技術が複数の製品に効くのか、1製品専用かの区別(専用技術は投資回収の前提が変わる) | 技術部門長と事業責任者 |
| 4. 時間軸への配置 | 何年に何を達成するかを置く | 前提が崩れたら日程を引き直す、その前提は何か(人・設備・外部の制度) | 技術部門長 |
| 5. 運用の設計 | 定期的に見直す | 見直しの引き金(日付ではなく、何が起きたら開くか) | 経営会議 |
補足を3点だけ加えます。
手順2について。 撤退の条件を先に書くことに抵抗が出るのは自然です。始める前から失敗の話をするように見えるためです。しかし条件を書かないまま進めたテーマは、成果が出ないときにも止まりません。止める理由を誰も持っていないからです。撤退条件は、そのテーマを守るための仕組みでもあります。
手順4について。 日程が動く原因は、たいてい技術そのものではありません。担当者の異動、設備の納期、制度の変更といった、技術の外側にあるものです。ですから「この日程は、何が前提として成り立っているか」を1行ずつ添えておくと、崩れたときにどこを引き直せばよいかがすぐ分かります。
手順5について。 「年に1回見直す」と書いてある運用は、更新が滞ります。日付は誰の担当でもないためです。そうではなく、「主要顧客の仕様変更があったら」「競合が該当領域で製品を出したら」「設備投資の稟議が動いたら」というように、起きたら開くという形で引き金を決めておきます。
形骸化を分ける3つの分かれ目
ここまでの手順を踏んでも、1年後に誰も開かない資料になることがあります。そうならなかったロードマップには、共通して次の3つがあります。
1つ目は、やめた技術を書く欄があること。 多くのロードマップは、これからやることだけが並びます。しかし後から見て価値があるのは、「なぜこの技術を追わないと決めたのか」という記録のほうです。判断の理由が残っていないと、数年後に同じ議論を最初からやり直すことになります。やめる判断そのものについては、捨てる判断は、現場の中では下せないでも扱っています。
2つ目は、経営計画と同じ言葉で書かれていること。 技術部門の中では通じる言い方が、経営会議では通じないことがあります。同じ取り組みを指しているのに、片方は技術の名前で、もう片方は事業の名前で呼んでいるためです。両方の紙に同じ言葉が並んでいると、予算の議論のときにそのまま持ち込めます。書き方の詳細は中期経営計画の作り方に整理しています。
3つ目は、更新の作業量が現実的であること。 精緻に作り込んだ図ほど、更新に手間がかかります。手間がかかる資料は更新されず、更新されない資料は参照されません。線の数を絞り、1回の更新が30分で終わる粒度に留めておくほうが、結果として長く使われます。
なお、技術ロードマップは一度で完成させるものではありません。最初の版は、埋まらない欄があってかまいません。埋まらないこと自体が、いま決まっていないことの一覧になるからです。
まとめ
- 10年先を見据えた技術ロードマップの策定に取り組んでいる製造業は32.5%(日本能率協会・702社)。同じ設問で上位に来るのはDX・AI活用推進51.7%・高効率設備の開発・導入50.3%で、目の前の工程を良くする取り組みが先に立っている
- 詰まる原因は作図ではなく、いつの話か・誰がやめると決めるか・経営計画とつながっているかの3点
- 手順は5つ。各手順で決めるのは、洗い出しではなく基準・撤退条件・区別・前提・引き金
- 形骸化を防ぐのは、やめた技術の欄・経営計画と同じ言葉・30分で更新できる粒度の3つ
技術ロードマップづくりで最初に止まるのは、たいてい「やめる判断を誰が下すか」の部分です。当社は製造業の技術部門に対して、社外の立場から論点を立て直し、判断の材料を揃えるところをご一緒しています。売る製品や紹介先を持たないため、特定の技術に寄せる動機がありません。手元の図が動かないと感じておられる場合は、一度お聞かせください。
いま止まっているテーマは、ありますか。
初回は、相談したいテーマと現状のお悩み、テーマの推進に掛けられる予算規模の2つを一緒に確認します。「まだ相談する段階か分からない」という状態でも構いません。
