フレームワークが嫌われる理由
公開 2023-11-03
ビジネスの現場では、問題解決や戦略づくりに数多くのフレームワークが使われています。SWOT分析、3C、PEST、5フォース、ロジックツリー――。書籍や研修で学べる型はいくらでもあります。それなのに、実務家の口からはしばしば「フレームワークは使えない」「あれは意味がない」という声が漏れてきます。
先に結論をお伝えします。「フレームワークは使えない」と嫌われる本当の理由は、フレームワークそのものの不備ではなく、その使い方――とりわけ「何を解くべきか」という"論点"を決めないまま型に当てはめてしまうことにあります。フレームワークは万能の道具ではありません。機能と限界を理解せずに使えば、当然、期待した答えは出てきません。
この記事では、フレームワークがなぜ「使えない」と言われるのかを構造から解きほぐし、本当に活かすための進め方を、経営企画・事業企画・DX推進の担当者がそのまま使える形で解説します。カギになるのは、たったひとつの原則――「まずは論点から考える」です。
※用語注:フレームワークとは、問題を考えるときの「型(枠組み)」のこと。バラバラな情報を漏れなく整理し、考えや議論を進めやすくするための道具を指します。SWOT分析や3Cなどが代表例です。
「フレームワークは使えない」と言われる4つの場面
まず、どんなときに「使えない」と言われるのかを言語化してみましょう。多くの現場で起きているのは、次の4つのパターンです。
埋めても「で、何が言えるの?」で終わる――枠を全部埋めたのに、そこから打ち手や結論が出てこない。
競合と同じ結論になってしまう――同じ型で分析すれば、他社と同じ「機会」と「脅威」が並び、差別化につながらない。
現実が型に収まらない――自社の事情や業界の特殊性が、既存の枠にうまく当てはまらず、無理やり押し込むことになる。
作って終わり、意思決定に効かない――立派な分析シートはできたが、一度作ったきりで使われず、「絵に描いた餅」になる。
この4つに共通しているのは、どれもフレームワークという道具そのものの欠陥ではないという点です。同じSWOT分析を使っても、鋭い示唆を引き出す人はいます。つまり問題は、道具ではなく「使い方」の側にあります。以下では、その使い方の何がずれているのかを、3つの層に分けて掘り下げます。
誤解①:フレームワークは「万能のツール」ではない
「フレームワークは使えない」という不満の多くは、フレームワーク自体の不備ではなく、フレームワークへの誤解から生まれています。最大の誤解は、「これを使えば答えが出る万能のツールだ」と思い込んでしまうことです。
フレームワークは、あくまで思考の補助線です。考えるべき要素を漏れなく並べ、頭を整理しやすくするための枠にすぎません。枠を埋める行為は「考えること」そのものではなく、「考えを整理して見えるようにすること」です。ここを取り違えると、枠を埋めた瞬間に思考が止まる――いわゆる思考停止に陥ります。
SWOT分析で強み・弱み・機会・脅威のマス目を埋める。→ しかし「だから何をすべきか」は、マス目の中には書かれていない。
3Cで市場・競合・自社を整理する。→ しかし「どこで勝つか」の判断は、整理の外側にある。
フレームワークは「問いに答えを出す機械」ではなく、「答えを考えるための材料を、抜け漏れなく机の上に並べる道具」です。機能(整理を助ける)と限界(答えそのものは出さない)を理解せずに使うと、必ず失敗します。万能だと期待するから、「使えない」という裏切られた感覚が生まれるのです。
本質的な問題:解決策が「解くべき論点」に基づいていない
誤解を一段深く掘ると、より本質的な問題が見えてきます。それは、フレームワークが提供する解決の枠組みが、適切な"論点"に基づいていないことです。
フレームワークが与えてくれるのは、あくまで一般的・汎用的な枠組みです。「どんな会社の、どんな状況にも、そこそこ当てはまる」ように作られています。裏を返せば、あなたが今まさに解きたい固有の問いには、そのままでは最適化されていないということです。それを特定の論点に合わせて仕立て直す努力が、しばしば抜け落ちています。
※用語注:論点(ろんてん)とは、その問題を解くために「答えを出すべき問い」のこと。たとえば「新規事業をやるべきか?」ではなく、「どの顧客の、どの不満を、既存事業の何を活かして解けば、3年で黒字化できるのか?」のように、答えると意思決定が前に進む具体的な問いを指します。
順番が逆になっていることが、多くの失敗の正体です。本来は「解くべき論点があって、それに答えるためにフレームワークを選ぶ」はずが、現場では「フレームワークが先にあって、それを埋めるために作業する」ようになってしまう。これが「手段の目的化」です。フレームワークを"使うこと"自体が目的になり、肝心の「何を明らかにしたかったのか」が置き去りになります。
たとえば、同じSWOT分析でも―― - 論点が「なぜ主力商品の値下げが止まらないのか」なら、強み・弱みの中身は"価格を守れる差別化要素はどこか"に絞り込まれます。 - 論点が「新規参入すべき市場はどこか」なら、機会・脅威の中身は"参入余地と勝ち筋"に絞り込まれます。
論点が違えば、同じ型でも埋めるべき中身はまったく変わります。論点を決めずに埋めると、当たり障りのない一般論が並び、「で、何が言えるの?」で終わるのです。競合と同じ結論になるのも、根は同じ。皆が「論点なきSWOT」を埋めれば、皆が同じ機会と脅威にたどり着きます。
コンサルタントの落とし穴:論点に合わない「既製の服」を当てはめる
さらに厄介なのは、フレームワークを提案する側のコンサルタントですら、この落とし穴に陥ることがあるという点です。
フレームワークはコンサルティングの象徴的な道具です。しかし、クライアントに提案されるフレームワークが、そのビジネスの本当の論点に合っていないことは少なくありません。それはたとえるなら、サイズも用途も確かめずに渡される「既製の服」のようなものです。見栄えは立派でも、着る人の体型(=その会社固有の状況と論点)に合っていなければ、動きにくく、結局タンスにしまわれます。
「既製の服」の当てはめが起きる典型は、こんな流れです。
案件が始まると、まず"見栄えのするフレームワーク"を選ぶところから入る。
そのフレームワークに現実を流し込む。収まらない部分は、都合よく削るか、無理に押し込む。
一見ロジカルな資料は完成するが、クライアントの一番の悩み(論点)には答えていない。
こうして出来上がった成果物が、「コンサルのフレームワークは使えない」というレッテルの、実際の発生源になります。悪いのは型ではなく、「その会社の論点に合わせて仕立てる」という一手間を飛ばしたことです。優れた作り手は、既製の型をそのまま渡さず、必ず顧客の体型に合わせて仕立て直します。
フレームワークを活用する正しい進め方――論点起点の3ステップ
では、どう進めればフレームワークは"使える"道具になるのか。答えはシンプルで、型から入らず、論点から入ることです。具体的には次の3ステップで進めます。
ステップ1:解くべき論点を明確にする
最初にやるのは、フレームワーク選びでも、情報収集でもありません。「この検討で答えを出すべき問いは何か」を明らかにすることです。これがないと、そもそも適切なフレームワークを選ぶことはできません。
論点は、いきなり1つに決まるものではありません。まず候補を広く洗い出し、意思決定に効くものへ絞り込みます。目安は次の3つの問いです。
本当に解きたいのは何か――表面の困りごと(例:売上が落ちた)ではなく、その奥の問い(例:どの顧客層が、なぜ離れたのか)は何か。
答えが出たら、何が決まるのか――その問いに答えると、どんな意思決定が前に進むのか。決定につながらない問いは論点ではありません。
今、最も効くのはどれか――複数ある問いのうち、優先して解くべき一つはどれか。
ここを飛ばして型に入ると、あとで必ず「論点がずれていた」と戻ってくることになります。上流で論点を1〜2文に言い切れるかどうかが、その後のすべてを左右します。
ステップ2:論点に合わせてフレームワークを選び、カスタマイズする
論点が定まって初めて、それを解くのに最も適したフレームワークを選びます。すべての問題に同じ型が使えるわけではありません。論点の性質によって、効く道具は変わります。
解きたい論点の型 | 相性のよいフレームワークの例 |
外部環境の変化を捉えたい | PEST分析、5フォース |
自社の立ち位置を見極めたい | 3C、SWOT分析、VRIO |
打ち手の優先順位を決めたい | ロジックツリー、ペイオフマトリクス |
顧客への提供価値を設計したい | カスタマージャーニー、4P/4C |
そして重要なのは、選んだ型をそのまま使わないことです。論点に合わせて、見る切り口を足したり、要らない枠を削ったりと、自社の状況に合わせて仕立て直します。たとえば5フォースなら、その業界特有の力学(規制・プラットフォーム事業者の存在など)を要素として加える。SWOTなら、論点に直結する軸だけを深掘りする。カスタマイズこそが、既製の服をオーダーメイドに変える工程です。
ステップ3:フレームワークと論点を照らし合わせ、示唆を出す
最後に、埋めたフレームワークと、最初に立てた論点を照らし合わせます。「この整理は、結局あの問いにどう答えているのか?」を問い直す工程です。ここで初めて、示唆(=だから何をすべきか、という含意)が生まれます。
埋めた各要素を眺めて終わりにしない。
「だから、論点に対する答えはこうだ」と一段上の結論に引き上げる。
答えが出ていなければ、論点の立て方かフレームワークの選び方に戻る。
フレームワークを埋める作業は、この「示唆出し」のための準備にすぎません。整理して満足するのではなく、論点への答えに変換して初めて、フレームワークは仕事をしたことになります。
「使えない」を「使える」に変える早見表
ここまでの違いを一枚にまとめると、次のようになります。フレームワークが"使えない"人と"使える"人は、道具の知識ではなく、論点との向き合い方で分かれます。
観点 | フレームワークが「使えない」使い方 | フレームワークが「使える」使い方 |
出発点 | フレームワークから入る(型ありき) | 論点から入る(問いありき) |
型の扱い | 学んだ型をそのまま当てはめる | 論点に合わせて選び、カスタマイズする |
埋めた後 | 埋めて満足・整理して終了 | 論点に照らして示唆を出す |
成果物 | 一度作って終わり(絵に描いた餅) | 意思決定に使い、更新し続ける |
残るもの | 個人の頭の中(属人化) | チームで共有できる地図(再現可能) |
属人化させず、再現可能な「共通地図」として組織に残す
正しい進め方を理解しても、それが特定の人の頭の中だけにあると、組織としては再現できません。「あの人がいたときはうまく回ったのに」で終わってしまいます。フレームワークが「作って終わり」になりがちなのも、論点と示唆が個人に属人化し、組織に残らないからです。
そこで最後の一手が、論点・仮説・フレームワークの使い方を、一枚の「共通地図」として見える化し、チームで共有することです。地図に載せるのは、最低限この4つです。
解くべき論点(この検討で答えを出す問い)
選んだフレームワークと、その理由(なぜこの型を、どうカスタマイズしたか)
そこから出た示唆(論点への答え)
次に検証すること(残った問いと進め方)
こうして地図の形にしておけば、担当者が代わっても、なぜその型を選び、何を明らかにしたのかが引き継がれます。論点設計というコンサルの一番の価値を、属人的な職人技のままにせず、誰がやっても一定の品質で再現できる「型」と「地図」に変える――これが、フレームワークを組織の資産に変える最後の工程です。近年は生成AIを使い、論点・仮説の構造化やフレームワークの下書きを支援することで、この地図づくりを速く・安定して回せるようになってきています(ただし最終的な論点の見極めは人が担うことが前提です)。
背景:なぜ日本企業は「論点から考える」が弱点になりやすいのか
構造的な背景にも触れておきます。日本ではDXを推進する人材が不足しており、なかでも最も足りないのが、目的設定から効果検証までを一気通貫で担う「ビジネスアーキテクト」と呼ばれる上流人材だと指摘されています〔IPA「DX動向2025」〕。
上流人材とは、まさに「解くべき論点を立て、そこから手段を選ぶ」役割を担う人のことです。この人材が不足しているために、多くの現場では論点設計が飛ばされ、いきなり手段(フレームワークやツール)から入ってしまう。「フレームワークは使えない」という不満は、担当者の努力不足ではなく、論点から考える力が組織に足りていないという構造問題の表れでもあるのです。
だからこそ対策は2つです。ひとつは上流人材を育てること。もうひとつは、論点から考えるプロセス自体を「型」と「地図」にして、誰がやっても一定の品質で進められるようにすることです。後者は、人材が育つのを待たずに今日から始められます。
よくある失敗パターンと回避策
失敗パターン | なぜ起きるか | 回避策 |
枠を埋めても示唆が出ない | 論点を決めずに型から入っている | ステップ1で「解くべき問い」を先に言い切る |
競合と同じ結論になる | 論点なしで一般論を埋めている | 自社固有の論点に合わせて型をカスタマイズする |
現実が型に収まらない | 既製の型をそのまま当てはめている | 論点に合わせて切り口を足す・削る |
手段が目的化する | フレームワークを使うこと自体がゴールになっている | 「この型で何の問いに答えるか」を常に確認する |
作って終わりになる | 成果が個人に属人化している | 論点・示唆を共通地図としてチームに残す |
よくある質問(FAQ)
Q. フレームワークは学ぶ意味がないのでしょうか? いいえ。フレームワークは、考えるべき要素を漏れなく並べるための強力な補助線です。意味がないのではなく、「論点を決めてから使う」という前提を欠くと力を発揮しない、というだけです。型の知識は、論点起点の使い方とセットにして初めて生きます。
Q. どのフレームワークを覚えるのが一番効率的ですか? 「どの型を覚えるか」より「どの論点に、どの型が効くか」を判断できることのほうが重要です。型は必要になったときに調べれば十分です。まずは論点を立てる力を鍛えるほうが、あらゆる型の効きを底上げします。
Q. 論点を立てるのが難しく感じます。何から始めればよいですか? 表面の困りごとに対して「それはなぜ?」「答えが出たら何が決まる?」を2〜3回繰り返してみてください。決定につながる問いにたどり着いたら、それが論点です。最初は1〜2文で言い切ることを目標にすると、精度が上がっていきます。
まとめ
「フレームワークは使えない」と嫌われる原因は、道具の不備ではなく使い方にある。とりわけ解くべき論点を決めずに型から入ることが最大の失敗。
フレームワークは万能ではなく、あくまで思考の補助線。埋めることは考えることではない。
コンサルですら、論点に合わない「既製の服」を当てはめる落とし穴に陥る。悪いのは型ではなく、仕立て直す一手間を飛ばすこと。
正しい進め方は、①論点の明確化 → ②論点に合わせた選定・カスタマイズ → ③照合と示唆出しの順。型からではなく論点から入る。
さらに、論点と示唆を属人化させず「共通地図」として組織に残すことで、フレームワークは一過性の作業から再現可能な資産に変わる。
「まずは論点から考える」――この原則を頭に置くことが、フレームワークを有効に活用するための出発点です。フレームワークはあくまで道具であり、それを使いこなす知恵と技術こそが、問題解決へのカギになります。
株式会社Labzの「共通地図」は、プロジェクト推進の上流――解くべき論点の設計から、それを関係者全員で共有できる一枚の地図にするところまでを、コンサルティングの品質と生成AIで支援するサービスです。フレームワークが"使えない"まま止まっているとお感じの方は、ぜひ一度ご相談ください。「まず論点から」を、貴社の手に残る型に変えるお手伝いをします。
