【生成AI活用】「できる人にしか、できない」を抜け出す-生成AIとAIエージェントで営業提案業務を効率化した事例
- Daisuke Wakui

- 7月5日
- 読了時間: 10分
更新日:7月5日

見積も、提案も、設計も、結局は"分かっているベテラン"がやらないと進まない。若手や他分野の担当者に任せると、手戻りが増え、かえって時間がかかる。だから忙しい人ほど忙しくなる――。専門性の高い法人向け(B2B=企業間取引)の現場では、よく聞く悩みです。そしてこれは、製造業や営業に限りません。専門知識が"一部の人の頭"に閉じている現場なら、業種を問わず同じ光景です。
これは、私たちLabz.が実際にご支援した、ある産業機械メーカーの営業提案業務の話です。生成AIを使った業務効率化、と聞くと身構えるかもしれませんが、この事例のキモは「最新のAIを入れたこと」ではありません。むしろ、「何から手をつければいいか分からない上流の問題を、見える化して前に進めた」、私たちの本業そのものの一例です。
先に結論をお伝えします。突破口になったのは、①業務を見える化して"本当のボトルネック"を見つけ、②小さく試して効果を数字で確かめ、③そのうえで生成AIとAIエージェントを使い、"詳しい人にしかできなかった仕事"を誰でもできる形にしたこと。この順番です。「専門知識のある人にしか回せない業務」を抱える現場すべてに、同じ構造で効きます。
※本記事は、実際のご支援事例をもとにしていますが、クライアント企業の特定につながる情報(社名・部署名・製品型番・具体的なシステム名など)はすべて伏せ、要点を一般化して構成しています。
支援前の状況-「できる人にしか、できない」
最初に業務を伺うと、専門業務の現場に共通する悩みが見えてきました。
仕事の実態は"差分設計"。見積や設計は、ゼロから作るのではなく、「過去の似た案件を探し、違うところだけ直す」のが基本です。つまり、ちょうどいい過去案件を見つけられるかどうかで、かかる時間が倍近く変わる。
ところが、その過去案件が、うまく探せない。図面や見積は社内にあるのに、検索性が悪く、金額ともひも付いていない。せっかくの資産が、"あるのに使えない"状態でした。
そして、すべてがベテランの経験頼み(属人的)。熟練者は勘所を押さえて速く正確に進めますが、若手や専門外の担当者が起点になると、依頼書の品質が落ち、すり合わせや不要な現地調査といった手戻りを生む。同じ会社の中で、品質もスピードもバラバラでした。
「なんだか時間がかかっている」ことは、みな感じていました。けれど、どこが本当の原因なのか、何から手をつければいいのかは、はっきりしない。これは、答えの見えにくい"上流"の問題に共通する状態です。私たちは、まずこの霧を晴らすことから始めました。
当社のアプローチ-"なぜ時間がかかるのか"を見える化する
私たちが最初にやったのは、AIを導入することではなく、「そもそも、この仕事のどこに時間が溶けているのか」を突き止めることでした。進め方は、3つのステップです。
① 業務を見える化し、隠れた"本当のボトルネック"を見つける
各部署の仕事を工程ごとに分け、それぞれの工程に「平均でどれくらい時間がかかっているか」を紐づけて可視化しました。段階を追ってヒアリングし(全体像 → 工数のかかる所 → 個別工程 → ツール要件)、複数の部署を横断して並べてみます。
すると、部署ごとにバラバラに見えていた悩みの奥に、共通する一つのボトルネックが浮かび上がりました。それが、先ほどの「過去の類似案件を探し当てるのに時間がかかる」という点です。一つの部署だけを見ていたら「その部署固有の問題」に見えたはずのものが、横断して可視化したことで、会社全体の"効きどころ"として特定できたのです。
見える化で分かったのは、時間の在りかだけではありません。「どの工程で、誰が、何を決めれば、後工程が楽になるか」――たとえば、営業の段階で参考案件を特定できれば、設計は早く"差分の検討"に入れる。仕事を「作業」と「判断」に分けて捉え直せたことも、大きな収穫でした。
② 小さく試して、効果を数字で確かめる(FS)
ボトルネックが分かっても、いきなり大きなシステムを作るのは危険です。そこで私たちは、まず"小さく試す"ことにしました。過去案件を整理し、身近な表計算ソフトで動く簡易的な検索の仕組みを作って、いくつかのサンプル案件で「本当に、ちょうどいい参考案件を引けるか」を検証したのです。
※用語注:この「小さく試して見込みを確かめる検証」を FS(フィージビリティスタディ) と呼びます。本格投資の前に、効果とリスクを実データで見極める工程です。
結果、サンプル6件のうち5件で、適切な参考案件を特定でき、そこから試算すると受注見積までの工数を約46%削減できる見込みが立ちました。「効きそう」を「これくらい効く」という数字に変える。この一歩があるからこそ、次の投資判断に、自信を持って進めます。
③ 生成AIとAIエージェントで、"詳しくない人でも使える"ようにする
効果が見えたら、次はいよいよ生成AIの出番です。ここで私たちは、大きく2つのことを確かめました。
一つは、生成AIなら、"きれいな表"になっていないデータも探せるということ。備考欄に略号や型式が入り混じったような、1,000行を超える雑多なリストからでも、目的の項目を拾い出せました。ただし、ここに見落としがちな学びがあります。精度を決めたのは、AIの賢さそのものより、AIに渡す前の"下ごしらえ"――データを整理し、構造を整えてから渡すこと――でした。同じAIでも、下ごしらえの質で結果が変わるのです。
もう一つは、より本質的な壁でした。高い精度を出すには「どの列に、どんな値が入っているか」を分かった人が、細かく指示(プロンプト)を書く必要がある。つまり、データの構造に詳しい人にしか使えない。これでは、属人化の問題が形を変えて残るだけです。
この壁を壊したのが、AIエージェントでした。コンセプトはシンプルで、「人が"意思"を持ち、エージェントが"知識"を持つ」。
※用語注:AIエージェントとは、人の指示を受けて、自分で考えながら対話的に作業を進める生成AIの仕組みです。ここでは、データの中身を熟知した"物知りな相棒"のように働きます。
使う人は「こういう条件の案件を知りたい」という要望(意思)だけを、普通の言葉で伝えればいい。エージェントの側がデータの構造(知識)を持っていて、「それはこの列のことですか?」と対話でかみ合わせながら、目的の検索条件まで導いてくれる。こうして、リストの中身を知らない人でも、目的の案件を探し当てられるようになりました。裏側では、何を渡し・何をさせ・どんな形で返すかを、あらかじめ丁寧に決めてあります。難しい言葉は、使う人からは一切見えません。
支援の成果-生成AIによる業務効率化で、属人化した"勘"が誰でも使える仕組みに
一連の検証を通じて、成果は2つの形で表れました。
1つ目は、数字で見える手応えです。最初に取り組んだ領域のFSで、受注見積までの工数を約46%削減できる見込みを、実データで試算できました(サンプル6件中5件で参考案件を特定。現地調査の工数は除く)。その後、他の製品領域へ広げても、"参考案件を探す"という効きどころは同じように機能しました。念のため正確に申し添えると、46%はこの最初の領域での試算値であり、他領域で確かめられたのは「削減率の再現」ではなく「仕組みが同じように効くこと」。全社での実際の削減は、これからお客様の展開のなかで確かめられていきます。数字を大きく見せるより、どこまでが検証済みかを正確にお伝えします。
2つ目は、こちらがより大きい――"できる人にしか、できない"の壁が崩れたことです。たとえば、これまで過去案件に手が出せず先輩の手が空くのを待っていた若手が、外出先からアプリに「こういう条件の案件、ある?」と話しかけるだけで、近い案件を自分で引き当てる。データの列の名前も、リストの構造も知らないまま、です。ベテランの頭の中にあった勘所が、検索できる仕組みとAIエージェントに移り、表計算が苦手な人でも、普通の言葉での質問だけで検索や集計ができるようになりました。属人化していた"勘"が、組織の誰もが使える再現可能な仕組みに変わったのです。
しかも、話は案件検索だけにとどまりません。「必要な業務情報」と「やってほしいこと」をエージェントに渡しておけば、毎回細かい指示を書かなくても仕事が回る。これは、これまで自動化が難しかった"文章を扱う仕事"(探す・数える・突き合わせる)全般に効きます。専門的なプログラミングの知識がなくても話し言葉で頼めるので、技術系以外の部門へも広げていける――そんな道筋まで見えてきました。
なお、本事例はまずPhase1(現状の見える化と方針づくり、FSでの効果検証)と、Phase2(他部署への展開とAI活用の検証)の段階です。全社への展開は、お客様自身が主役になって進み、私たちは"地図の更新"に伴走していきます。
この事例と「共通地図」-現場に残る、再現できる進め方
改めて振り返ると、私たちがやったことの本質は、最新のAIを持ち込んだことではありません。「なぜ時間がかかるのか」という霧のかかった問いを、見える化して"効きどころ"を特定し(この"工程と工数の地図"そのものが、現場に残る資産です)、そこにあった属人的な知識を、AIで"誰でも再現できる形"に置き換えたこと。この一連の流れそのものが、価値でした。
そしてこの事例が効いたのは、単体の技術のおかげではありません。"どこが効きどころかを見立てる力" × "ベテランの暗黙知を、誰でも使える形にする力" × "生成AIで実装する力"の掛け算、この3つが揃ったからこそでした。そして、この掛け算こそ、簡単には真似できない部分です。
これは、私たちの事業「共通地図」と同じ思想・アプローチです。世の中の支援は、大きく2つに分かれています。経営コンサルは「答えは出すが、やり方は社内に残らない」。PMOは「決まった作業は管理するが、"そもそもどこに手を打つか"は描けない」。今回で言えば、"本当のボトルネックはどこか"を見える化するのがコンサル的な役割、それを"誰でも使える仕組み"にして現場に残すのが再現可能化。私たちは、その両方を一枚の地図でつなぎます。
※用語注:PMO(Project Management Office)は、プロジェクトの進捗・課題・リソースを管理・支援する役割・組織。実行の管理は得意な一方、「そもそもどこを目指すか」の構想は担いにくい立場です。
もう一つ、この事例には大事な意味があります。よくある生成AIの取り組みは、試しに使ってみる段階で止まりがちです。「すごいね」で終わって、現場の仕事は変わらない。この事例が違ったのは、手元の汎用生成AIで小さく試し → お客様のAI基盤で本番の精度を確かめ → エージェントで"誰でも使える"ところまで、地に足をつけて進めたからです。「魚を渡す」のではなく、「魚の釣り方の地図を、AIで描いて渡す」。この進め方が効くのは、業務効率化に限りません。新規事業、DX(デジタル化による事業変革)、生成AIの導入といった、「何から手をつければいいか分からない」上流のテーマすべてに、同じ形で効きます。
まとめ
専門業務が回らないとき、私たちはつい「人を増やそう」「ベテランに頼もう」と考えます。けれど、この事例が示しているのは、壁の正体は多くの場合"人手不足"そのものではなく、"どこが本当のボトルネックかが見えていないこと"と、"知識が一部の人に閉じ込められていること"だということです。
どこに時間が溶けているかを、見える化する。効きどころは、たいてい隠れている。
小さく試して、効果を数字で確かめる。いきなり大きく作らない。
属人的な知識を、AIで"誰でも使える形"にして残す。試し止まりにしないコツは、ここにあります。
「できる人にしか、できない」。もしそうした業務に頭を抱えているなら、足りないのは人手や気合いではなく、まだ描かれていない一枚の地図なのかもしれません。
「うちのこの業務も、誰でもできる形にできるだろうか?」――もしそう感じられたら、まずは30分、現状をお聞かせください。売り込みではなく、"どこに時間が溶けているのか""何がベテランの頭に閉じ込められているのか"を、一緒に見立てるところから始めます。 株式会社Labz.の「共通地図」は、経営コンサルとPMOの"間"にある白地――明確な答えのない上流テーマのプロジェクト推進を、論点設計 → タスク・判断への分解 → 生成AIによる再現可能化、という流れで支援するサービスです。進め方や知識を属人化させず、再現可能な"地図"として貴社の手に残し、その後の展開にも伴走します。新規事業でも、DXでも、戦略づくりでも――そして業務効率化も、その一つです。"最初の一枚"を、一緒に描きましょう。


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