【採用戦略策定】「頑張っているのに採れない」を抜け出す採用戦略の立て直し方-あるIT人材派遣会社の事例
- Daisuke Wakui

- 7月4日
- 読了時間: 12分
更新日:7月5日

採用がうまくいかない。エージェントとは定期的に会い、勉強会もやり、十数社とも付き合っている。数の上では、採用目標のかなりの部分を満たせている年もある。それなのに、なぜか競合に勝てている気がしない。そして厄介なことに、「何が原因なのか」も「次に何をすればいいのか」も、はっきりしない。
これは、私たちLabz.が実際にご支援した、あるIT人材派遣会社の採用現場の悩みです。エンジニアやコンサル人材の採用競争のなかで、他社と差別化ができず苦戦していました。そしてこれは、人材業界に限った話ではありません。「頑張っているのに前に進まない」ことの正体は、業界を問わず、たいてい同じ構造をしています。新規事業でも、DX(デジタル化による事業変革)でも、あなたの現場に置き換えて読んでいただけるはずです。
先に、この採用戦略の立て直しの結論をお伝えします。壁を突破したのは、新しい採用テクニックではありませんでした。決め手は、「これまで見えていなかった"意思決定の構造"を、一枚の地図として見えるようにしたこと」です。誰が、どんなロジックで、誰を選んでいるのか。それが見えた瞬間に、「なぜ採れないのか」と「どこに手を打てば効くのか」が、具体的な言葉に変わりました。
※本記事は、実際のご支援事例をもとにしていますが、クライアント企業の特定につながる情報(社名・具体的な実績数値・取引先名など)はすべて伏せ、要点を一般化して構成しています。
支援前の状況-「採れているのに、勝てている気がしない」
最初にお話を伺ったときの状況は、多くの採用現場に通じるものでした。
やることは、やっている。取引エージェントは十数社。特に関係の深い主要なエージェントとは、週次の定例会や月次の振り返り、勉強会まで実施していました。「努力の量」が足りていないわけではなかったのです。
それでも、"一般派遣の会社"という立ち位置から抜け出せていない。競合は次々と新しい打ち出しで人材を惹きつけているのに、自社には「これぞ」という尖り(差別化点)がなく、結局は年収の勝負に持ち込まれて負ける。
そして最大の問題は、すべてが感覚的・属人的だったことです。「どのエージェントが本当に効いているのか」「なぜ一番深く付き合っている大手ルートから、良い人が来ないのか」誰も、はっきりとは答えられませんでした。
何かがうまくいっていないのは分かる。でも、それを構造として捉えられていないから、打ち手が「気合い」や「思いつき」になってしまう。これは、答えの見えにくい"上流"のテーマに共通する状態です。私たちは、まずこの霧を晴らすことから始めました。
当社のアプローチ-"採用戦略の立て方"を論点に分解する
私たちが最初にやったのは、新しい施策を足すことではなく、「そもそも、この採用は何で決まっているのか」という問い(論点)を立て、それを"こう動いているはずだ"という仮説に分解し、データで裏を取っていくことでした。具体的には、3つの「見える化」を並行して進めました。
① エージェントの「紹介先決定ロジック」を解明する
中途採用の主軸はエージェント経由です。ならば、エージェントが「どの企業に、優先的に応募者を紹介するか」の決定ロジックを解き明かさないと、打ち手は当てずっぽうになります。
そこで、業界を熟知した有識者への取材と、クライアントの実績データを掛け合わせ、「エージェントはこう動いているはずだ」という仮説を、次の式に置いて検証しました。
紹介先の優先度 = 成約金額 + 選考スピード + 選考の柔軟性
成約金額 = 成約数 × 成約単価
成約数 = 応募数 × 内定率 × 決定率(内定承諾率)
成約単価 = 年収 × フィー(紹介手数料率)
ここまで分解すると、身も蓋もない事実が見えてきます。エージェントは慈善事業ではありません。内定率が高く、年収・フィーの大きい顧客に、優先的に人材を回します。しかも、大手・小規模といった規模を問わず、このロジックはほぼ共通していました。「たくさん会って、真面目に付き合う」だけでは、この式の分子は増えないのです。どこを動かせば紹介が増えるのか、そのレバー(動かすべき要素)が、はじめて具体的に見えました。
※用語注:内定率は「応募のうち何割が内定に至るか」、決定率(内定承諾率)は「内定のうち何割が実際に入社を決めるか」。エージェントは、この歩留まりが良く、単価も高い企業を"勝ち馬"として重点的に紹介します。
② IT人材が会社を選ぶ「6つの理由」を整理する
次に見たのは、応募者側の気持ちです。そもそも人材が「この会社にしよう」と決める理由が分からなければ、訴求のしようがありません。取材から、IT人材の意思決定は、おおむね次の6つに整理できました。
# | 選ぶ理由 | 中身 |
① | 年収 | できる限り高い年収の会社に入りたい(同職種では年収差が決定率に大きく効く) |
② | 関わる事業・プロダクト | 興味のある事業、社会を変える仕事に関わりたい |
③ | 得られる技術 | 先進的な技術を身につけたい、優秀な人と働きたい |
④ | 人間関係 | 技術を分かっている経営者・面接官と働きたい |
⑤ | 働き方 | ワークライフバランス・裁量・福利厚生の良い環境で働きたい |
⑥ | 役割 | 就きたい役割に就ける会社で働きたい |
大事なのは、このどれか一つでも強く訴求できないと、人は動かないということ。そして、若手や将来設計の明確な層は②③(事業・技術)に、落ち着きたい層は⑤⑥(働き方・役割)に反応しやすい、というように求職者のタイプで刺さる理由が違う。全方位に良い顔をしようとすると、結局どれも刺さらないのです。
③ 競合の立ち位置と、年収を上げる"原資"を確かめる
3つ目は、競合と自社の相対的な立ち位置です。競合各社を「ハードスキル(技術力・専門性という高付加価値)× ソフトスキル(人間力)」の2軸に並べてみると、各社が「低単価な技術者派遣」というイメージから抜け出そうと、それぞれの陣地を取りにいっているのが見えてきました。
さらに、財務の視点も欠かせません。「年収を上げろ」と言うのは簡単ですが、上げる原資があるのかは別問題だからです。公開情報ベースで一人当たり売上・平均年収の相場を並べると、構造がよく分かります。
領域(公開情報ベースの相場観) | 一人当たり売上/年 | 平均年収の目安 |
技術者派遣(一般) | 約600〜880万円 | 約410〜590万円 |
SIer(システム構築を請け負う企業) | 約740〜1,970万円 | 約380〜610万円 |
コンサル・高付加価値領域 | 約2,600〜3,060万円 | 約1,030〜1,200万円 |
高付加価値な領域ほど、一人当たり売上も平均年収も跳ね上がる。つまり「高付加価値人材へのシフト」こそが、年収・単価を上げる原資を生む――という道筋が、数字から読み取れました。ここは、採用の話でありながら、事業戦略そのものと直結する論点です。
支援の成果①-霧が晴れ、「本当の課題」が言葉になった
3つの地図が揃うと、「なぜ採れないのか」が、感覚論ではなく構造として見えてきました。本当の課題は「努力不足」ではなく、大きく3つに整理できました。
エージェントの"勝ち馬"に入れていない。独自の人材要件がなく、どのエージェントにも一律に対応していたため、優先的に紹介してもらえていなかった。だから全体として内定率が上がらない。
経験者層は、年収で競合にはっきり劣後していた。同職種の転職では年収差がそのまま決定率の差になるため、ここで負けていた。
若手・技術志向層には、"得られる経験"や"選考体験"の魅力が届いていなかった。むしろ選考の過程で、良くない印象を持たれてしまっている可能性さえありました。
そして、地図にしたからこそ見えた、直感に反する事実もありました。最も深く付き合っている大手ルートが、必ずしも最も生産的なわけではなかったのです。労力が十数社に薄く広がり、本来"効く"ところに集中できていませんでした。
この地図をお見せしたとき、まず変わったのは会議の空気でした。「なぜ採れないんだ」という堂々巡りが、「では、どのエージェントに寄せ、どの要件で"尖る"か」という前向きな意思決定の議論に変わったのです。見えていないものには、手を打てない。課題が構造として言語化された瞬間に、次の一手が具体的になりました。
支援の成果②-"仕組み"と"尖り"で立て直す道筋
課題が見えれば、打ち手は「気合い」ではなく「設計」になります。私たちは、短期と中期の2本立てでロードマップを描きました。
足元(短期):エージェントとの向き合い方を"仕組み"にする
まず、注力エージェントを5社程度に絞り、向き合い方に濃淡をつける。効いていない相手に等しく労力を割くのをやめ、応募数・内定率の高いところへ資源を寄せます。経験層の獲得が難しいなら年収・フィーを見直し、「何が何でも、紹介先を決めるCA本人と繋がる」。エージェント担当者を、いわば"社外の広報担当"として味方につける発想です。
※用語注:CA(キャリアアドバイザー)は、求職者側に立ち、どの企業に応募者を紹介するかを実質的に決める担当者。企業窓口の担当者と話すだけでは動きません。紹介の意思決定者であるCAと直接関係を築くことが、内定率を左右します。
ここで肝心なのは、この運用を「属人的」にしないこと。誰か一人の勘に頼るのではなく、次の3枚のフォーマットに落とし込み、半期ごとに見直して回せるようにしました。
フォーマット | 役割 | 頻度 |
① 定例会議フォーマット | 採用状況・今欲しい人材要件・次アクションを共有する | 週次/月次 |
② エージェントカルテ | 各エージェントの特徴・重視する要素・担当者の人柄を"診断書"にする | 半期 |
③ コミュニケーションプラン | カルテの理想像と現状のギャップから、今後の向き合い方を設計する | 半期 |
この3枚があれば、担当者が代わっても同じ品質で回せます。属人的だった勘やノウハウが、組織の"地図"になるのです。――そして今、私たちはこうした地図やカルテづくりそのものを、生成AIでドラフトできる形にしています。人が代わっても同じ品質で更新し続けられる。この「属人性を排した、再現できる形」こそ、私たちが事業「共通地図」と呼んでいるものの正体です。
あわせて、組織側の打ち手も欠かせません。採用の数値目標を人事だけに背負わせない(面接官・事業責任者にも当事者として持ってもらう)、技術と人間性を両立する面接官をアサインする、選考に時間がかかりすぎて応募者を待たせないよう、スピードを上げる――。採用は人事部だけの仕事ではない、という当事者意識づくりです。
中期(戦略):まず"何で選ばれる会社か"から決め直す
短期の仕組み化と並行して、「そもそも、自社は何で選ばれる会社になるのか」という戦略を検討します。順番が肝心で、価格の付け方や広告媒体を考える前に、まず"芯の価値"――どの強みで選ばれるのか――から決めます。
そのために、先ほどの6つの理由のうち、自社が優位を取れる"尖り"はどこかを見極めます。競合の打ち出しには、再現可能ないくつかの「型」がありました。
尖りの型 | どういうことか |
独自の人材要件 | 特定領域で「○○といえばこの会社」という代名詞的な立ち位置を築く |
年齢の幅を広げる | 他社が採らない年齢層まで対象を広げ、優秀な人材を取りこぼさない |
業界に特化する | 特定業界のDXなど、狭く深いユニークなポジションを取る |
自社サービス×人間関係 | 自社サービスやチームワークを前面に、「人と事業」で惹きつける |
教育×案件の確約 | 手厚い育成と経験機会を約束し、「なりたい自分になれる」を訴求する |
高付加価値へ転換 | 先端技術×コンサルなど、市場価値の高い人材へ育つ道を示す |
芯の価値が決まって初めて、値付けも、伝えるメッセージも、届ける媒体も、一本の筋で通ります。そして忘れてはならないのが、ブランドは"連想"であり"刷り込み"だということ。「この分野といえば、この会社」という連想は、一貫したメッセージを地道に繰り返すことでしか育ちません。
ここで大切なのは、私たちが"答え"を置いて去るのではない、ということです。描いたのは、クライアント自身がこの先を走り続けるための地図です。実行はここから、社内の手で進んでいきます。
この事例が、どんな現場にも効く理由
改めて振り返ると、私たちがやったことの本質は、特別な必殺技を授けたことではありません。「なぜ採れないのか」という霧のかかった問いを、論点と仮説に分解し、データで裏を取り、誰の目にも見える一枚の地図に変えたこと。ただそれだけです。しかし、この"地図にする"という営みが、決定的でした。課題が「気合い」から「構造」に変わり、打ち手が"仕組み"として社内に残り、私たちが去っても止まらない。
これは、世の中の支援の"あいだ"に空いた白地を埋める仕事でもあります。今回の例で言えば、「どのエージェントに寄せるか」を管理するのがPMO的な役割、「そもそも何で選ばれる会社になるか」を描くのがコンサル的な役割。私たちは、その両方を一枚の地図でつなぎ、貴社の手に残すことをしました。
※用語注:PMO(Project Management Office)は、プロジェクトの進捗・課題・リソースを管理・支援する役割・組織。実行の管理は得意な一方、「そもそもどこを目指すか」の構想は担いにくい立場です。
一般に、経営コンサルは「目的地まで連れて行ってくれるが、地図は渡してくれない」(成果は出るが、社内に再現可能な形で残らない)。PMOは「地図上のタスクは管理してくれるが、目的地は描けない」。Labz.が立っているのは、その2つの"間"です。「魚を渡す」のではなく、「魚の釣り方の地図を描いて渡す」。そして大事なのは、この営みが採用に限らないということ。新規事業、DX、業務改革、生成AIの導入――「何を考え、何をすればよいか分からない」上流のテーマすべてに、まったく同じアプローチが効きます。採用は、その一例にすぎません。
まとめ
採用がうまくいかないとき、私たちはつい「もっと媒体を増やそう」「もっとエージェントと会おう」と、努力の量を足そうとします。けれど、この事例が示しているのは、壁の正体は多くの場合"努力不足"ではなく、"意思決定構造の見えなさ"だということです。
相手は、明確なロジックで動いている。それを解明すれば、効くレバーが分かる。
人は、いくつかの理由のどれかで選ぶ。自社が勝てる"尖り"に絞って訴求する。
打ち手は"仕組み"にして残す。属人化を避け、再現可能にする。
「頑張っているのに、前に進まない」。もしそう感じているなら、足りないのは努力ではなく、まだ描かれていない一枚の地図なのかもしれません。
「うちのこの課題も、地図にできるだろうか?」――もしそう感じられたら、まずは30分、現状をお聞かせください。売り込みではなく、"どこに霧がかかっているのか"を一緒に見立てるところから始めます。 株式会社Labz.の「共通地図」は、経営コンサルとPMOの"間"にある白地――明確な答えのない上流テーマのプロジェクト推進を、論点設計 → タスク・判断への分解 → 生成AIによる再現可能化、という流れで支援するサービスです。進め方を属人化させず、再現可能な"地図"として貴社の手に残します。採用でも、新規事業でも、DXでも、"最初の一枚"を、一緒に描きましょう。


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