「良かれと思って作ったのに、刺さらない」を防ぐ新規事業の顧客理解-作る前に"受容性"を確かめた事例
公開 2026-07-13
社内には、技術も知見もある。世の中のニーズも、たしかにありそうだ。だから、鳴り物入りで新しいサービスを立ち上げる。ところが、ふたを開けてみると、思ったほど使われない。予算も人もかけたのに、"なぜ外したのか"さえ、うまく説明できない。新規事業でいちばん怖いのは、この失敗です。そして原因はたいてい、顧客理解を後回しにして、"自分たちの思い込み"で作ってしまったことにあります。
これは、私たちLabz.が実際にご支援した、ある大手化粧品メーカーの話です。同社は、豊富な美容の研究知見を活かして、シニア(65歳以上)に向けた新しい美容サービスを立ち上げようとしていました。技術はある。高齢化という追い風もある。けれど、「そのサービスを、誰が、本当に欲しがるのか」が、確信を持って描けずにいました。
先に、結論をお伝えします。突破口になったのは、良いサービスを設計することではありませんでした。いきなり作らず、"作る前に"、顧客の声で確かめたこと。ターゲットの本当のニーズを深く掴み、複数のサービス案を、実際にターゲットへ当てて「受容性」を検証する。これが、私たちの考える新規事業の顧客理解の進め方です。そしてこの進め方は、美容やシニアに限りません。製造業なら「自社の新素材を、本当に欲しがるのは現場のどの工程か」、法人向けサービスなら「どの部門の、誰の困りごとに刺さるか」対象が変わっても、"作る前に、顧客に当てて『本当に欲しがるか』を確かめる"形は、まったく同じです。
※本記事は、実際のご支援事例をもとにしていますが、クライアント企業の特定につながる情報(社名・具体的な事業数値・自社技術の固有名・検証したサービス案の詳細など)はすべて伏せ、要点を一般化して構成しています。
支援前の状況「技術はある。でも、"誰が本当に欲しがるか"が分からない」
最初にお話を伺ったときの状況は、新規サービスを立ち上げようとする多くの現場に通じるものでした。
技術と、追い風は、そろっている。研究の蓄積があり、高齢化という社会の流れもある。「やる価値はある」という手応えは、たしかにありました。
けれど、「本当のニーズ」が、思い込みかもしれない。「シニアは、こういうものを求めているはず」その"はず"が、社内の推測なのか、顧客の実感なのか、確かめられていない。
そして、「作ってみないと分からない」ことのリスクが大きい。サービスを一つ形にするには、時間もお金もかかる。外してから気づくのでは、遅い。
つまり課題は、技術力ではありませんでした。「顧客の"本当のところ"を、作る前に、どう確かめるか」の仕組みが無かったこと。私たちは、そこから設計しました。
当社のアプローチ-作る前に、"顧客の声"で確かめる
私たちがやったのは、いきなりサービスを設計することではなく、「このサービスは、誰の・どんな困りごとに応え、本当に受け入れられるのか」を、顧客に当てて確かめることでした。柱は、次の4つです。
① ターゲットの"本当のニーズ"を、深く掴む
まず、「シニア」とひとくくりにしないことから始めます。年齢や性別ではなく、価値観や行動で相手を定義する(たとえば「自分のできる範囲で、美しくありたいと思っている、美意識の高い層」)。そのうえで、実際に何人もの対象者にインタビューし、その人の"体験の流れ"(情報を集める→相談する→体験する→続ける、というカスタマージャーニー)に沿って、どこでつまずき、どこに不満を持つかを並べます。
すると、本音が見えてきました。「自分の世代に合った、信頼できる美容情報が、意外と無い」「気軽に相談できる場が無い」「過去に失敗したから、根拠や裏づけが無いと不安」「一人でも、気兼ねなく参加したい」――。"作る側の思い込み"ではなく、"顧客の実感"が、ここで初めて言葉になりました。
② 競合を"3つのレイヤー"で見て、「空白」と自社の武器を見つける
次に、競合を調べます。ここでの勘所は、一社ずつではなく、3つのレイヤーで見ること。(1)同じ客層に、周辺・隣接の領域で使われているサービス、(2)直接の競合、(3)特定分野に特化したサービス。この3つを並べると、市場の"空白"が見えてきます。
さらに、大事な発見がありました。多くのサービスは「稼ぐ本体の事業」と「そこへ人を呼び込む周辺の事業」を、意識的に切り分けているということ(たとえば、情報メディアで人を集めて物販へ、コミュニティで会員を集めてデータや広告へ、という具合です)。この構造を掴むと、自社の収益の絵も描きやすくなります。
そして浮かび上がった空白が、「シニアに特化して、美容を"面"でまるごと支えるサービスは、まだ少ない」というもの。しかも、過去に失敗して情報に慎重になっているシニアにとって、「大手メーカーが運営している」という"安心・信頼"は、それ自体が強い武器になります。名も知らぬ新興サービスには出せない価値です。
③ "点"ではなく"面"で設計する
空白が「面で支える」なら、サービスも点で作ってはいけません。「情報を集める → 相談する → 体験する → 続ける」という一連の流れを、ひとつのサービス(プラットフォーム=人やサービスが集まり、つながり合う土台)として設計します。人を呼び込む入口の機能と、続けてもらう周辺の機能を、組み合わせるのです。
④ 一つに決め打ちせず、複数の案を"同時に"顧客に当てる
ここが、この事例のいちばんの肝です。「作る前に検証しよう」は、もう耳にタコでしょう。けれど私たちがやったのは、一つの試作を当てるのではなく、"複数のサービス案を同時に"ターゲットへ提示して、どれが・どれくらい響くかを見比べたことでした。
※用語注:この「作る前に、顧客に当てて"受け入れられるか"を確かめる」ことを、受容性検証と呼びます。作ってから市場で失敗するのではなく、小さな仮の形で先に確かめることで、投資のムダと外しを減らせます。
すると、二つの発見がありました。ひとつは、"芯"になる機能――トータルに支える体験サービスや、気軽な相談の価値が、特に高く評価されたこと。そして、これがこの検証の最大の収穫でした。案によっては「人をはっきり選ぶ(二極化する)」と分かったのです。あるコミュニティ型の案は、前のめりになる人と、避ける人に、くっきり割れました。
一つの試作だけを当てていたら、この"割れ"は見えません。複数を並べて初めて、「万人向けに薄く作る」のではなく、「刺さる人に深く刺さる"困った人向け"として位置づけ、避けたい人には無理に勧めない」という設計判断ができました。参加の心理的ハードル(「一人だと気後れする」「見られたくない」)も、先回りして下げる。顧客に当ててみて初めて、"何を捨て、何に集中するか"が決まったのです。
そしてこの"複数案を当てて二極化を見る"やり方も、美容に限りません。新しい業務ツールでも、法人向けの新プランでも、「全員に薄く」より「刺さる層に深く」の判断は、同じように効きます。
支援の成果-「思い込み」が、「確かめた仮説」に変わった
いちばん大きかったのは、投資の的が絞れたことです。決め打ちしかけていた"万人向けの作り込み"を止め、外していたかもしれない予算と人を、「刺さる」と確かめた芯の案に集約し直した。つまり、外す前に、外す投資を先に消せたのです。
そのうえで、次のことが手元に残りました。
狙う相手と、その本当のニーズが、推測ではなく"顧客の言葉"で定まった。
どの案が刺さり、どの案が人を選ぶかが、実際に当ててみて分かった。
儲け方と規模の見立て(複数の収益源と、関連する複数の市場からの試算)が描けた。
次に何にお金をかけるかが、一つに絞れた。反応の良かったサービスを"体験できる画面"として小さく作り、もう一段確かめる(PoC=小さな試作で確かめる工程)。
そして、いちばんの財産は、成果物ではありませんでした。"確かめ方の型"そのものです。「問いをどう分解し、複数の案をどう顧客に当て、受容性をどう測るか」――この一連の型は、同社が次の新規事業でも、そのまま引き直せます。調査レポートを1枚渡して去るのではなく、自分たちで確かめ続けられる力を残す。それが、私たちの狙いでした。
※用語注:この事例は、新サービスを構想し、顧客に当てて受容性を確かめ、次の試作の計画までを描く「構想・検証」の段階です。ここで固めた仮説をもとに、小さな試作から段階的に進めます。私たちは、その先にも伴走します。
なお、会議の空気も変わりました。「たぶんシニアはこう思うはず」という思い込みの応酬が、「この案はこの層に刺さる」「この案は人を選ぶから、こう位置づける」という、顧客の声に根ざした議論に変わったのです。
この事例と「共通地図」思い込みを、"確かめた地図"に変える
改めて振り返ると、私たちがやったことの本質は、優れたサービスを思いついたことではありません。「誰の・どんなニーズに・何で応え、それは本当に受け入れられるのか」という問いに分解し、その答えを"顧客に当てて確かめられる形"にして、思い込みを一枚の"確かめた地図"に変えたこと。この営みそのものが、価値でした。
これが、私たちの事業「共通地図」の考え方です。コンサルの多くは、立派な結論や戦略を"渡して去り"、やり方は社内に残りません。私たちが大切にするのは逆で、答えそのものより、"確かめ方"どう問いを立て、複数の案をどう顧客に当て、受容性をどう測るかを、貴社が次の新規事業でも繰り返し引き直せる"型"として残すこと。今回の「複数案を顧客に当てて受容性を測る進め方」は、まさにその型にあたります。レポートは消費されますが、確かめ方は、資産として残ります。
※用語注:PMO(Project Management Office)は、プロジェクトの進捗・課題・リソースを管理・支援する役割・組織。実行の管理は得意な一方、「そもそもどこを目指すか」の構想は担いにくい立場です。答えを出すが残らない経営コンサルと、作業は回すが目的地は描けないPMO、そのどちらでもない"間"の白地に、私たちは立っています。
正直に、段階もお伝えします。この事例で私たちが使ったのは、論点の設計とインタビュー・受容性検証であって、分析を生成AIで回したわけではありません(美容の研究知見は、あくまでお客様の資産です)。ただ、今回残した"確かめ方の型"のように、「属人化させず、誰でも引き直せる資産にする」のが私たちの一貫した狙いです。共通地図がこの先で掛け合わせるもう一つの脚は、その型を、前提が変わっても誰でも引き直せるよう、生成AIで支えること。「魚を渡す」のではなく、「魚の釣り方の地図を、AIで描いて渡す」。その方向に進んでいます。
そして大事なのは、この進め方が美容の新規事業に限らないこと。新しいサービス、新規事業、業務改革、生成AIの導入「何から手をつければいいか分からない」上流のテーマであれば、同じ形で効きます。
まとめ-新規事業の顧客理解は、"作る前に確かめる"ことから
新しいサービスが当たらないとき、私たちはつい「もっと良い機能を」「もっと磨きを」と考えます。けれど、この事例が示しているのは、壁の正体は技術やアイデアの不足ではなく、"顧客の本当のところを、作る前に確かめていないこと"だ、ということです。
ターゲットを、価値観と行動で深く理解する。「シニアは」と一括りにせず、"本当のニーズ"を顧客の言葉で掴む。
複数の案を、"同時に"顧客に当てる。一つの試作では見えない「刺さる案と、人を選ぶ案」の割れ方が見える。
芯に集中し、人を選ぶ案は割り切る。万人向けに薄く作らず、刺さる人に深く。
「良かれと思って作ったのに、刺さらない」。もしその不安があるなら、足りないのは機能でもアイデアでもなく、作る前に顧客と確かめる、一枚の地図なのかもしれません。
「うちの新規事業、"本当に欲しがる人がいるか"を確かめきれていない」――もしそう感じられたら、まずは30分、その構想をお聞かせください。売り込みではなく、"どこに霧がかかっているのか"を、一緒に見立てるところから始めます。 (株式会社Labz.の「共通地図」は、答えのない上流テーマを、論点の設計から、複数案を顧客に当てて確かめる受容性検証、そして生成AIで再現できる"確かめ方"の型づくりまで支援し、その仮説を貴社の手に残すサービスです。)
