「何でもやっているのに、強みがない」を抜け出す成長戦略の立案-"点"を"面"に変えた事例
- Daisuke Wakui

- 7月7日
- 読了時間: 9分

「うちは、何でもやっている」。あの現場も、この業界も、幅広く手がけている。製品も、受託も、サービスも、そこそこ対応できる。なのに――「うちの強みは、これです」と、一言で言えない。どれも突き抜けず、利益も薄い。経営会議で「で、うちは結局、何で勝つの?」と問われて、言葉に詰まる――。心当たりのある方も、多いのではないでしょうか。
これは、私たちLabz.が実際にご支援した、生活のさまざまな現場の衛生管理を幅広く手がける、ある中堅メーカーの話です。同社は多くの領域に手を伸ばしていましたが、リソースが広く薄く散らばり、「強い領域」がはっきりしない。まさに、上の悩みそのものでした。そしてこれは、衛生の業界に限りません。「手広くやってきたが、強みが見えない」――多くの中堅企業が業種を問わず抱える壁であり、成長戦略の立案が難しくなる、根っこの問題です。
先に、結論をお伝えします。突破口になったのは、事業を増やすことでも、もっと頑張ることでもありませんでした。霧のかかった「どう成長するか」を論点に分解し、"選択と集中"で、点在する事業を一枚の「面」にまとめ直したこと。これが、私たちの考える成長戦略の立案の第一歩です。そしてこの進め方は、あなたの会社が製造業でなくても――サービス業でも、無形の商材でも――同じ形で使えます。
※本記事は、実際のご支援事例をもとにしていますが、クライアント企業の特定につながる情報(社名・財務数値・競合名・ブランド名など)はすべて伏せ、要点を一般化して構成しています。
支援前の状況-「点のビジネス」で、どこにも強みがない
最初に事業全体を伺うと、多くの中堅企業に通じる構造が見えてきました。
必要な領域を、広くカバーしている。だから一見、幅広くて強そうに見える。けれど実際は、限られた人数で多くのニーズに"その都度対応"しているだけ。どこにも「これぞ」という強みがなく、利益も薄い。これが、私たちの言う「点のビジネス」(=つまみ食い状態)です。
稼ぎ頭は、意外なところにあった。収益を分解すると、通販・EC(ネット通販)のチャネル(取引の入り口)は少人数で高収益。一方、手をかけている対面の大口顧客向けは、価格競争が激しく、人手もかかって薄利――なかには赤字の領域もありました。しかも、稼ぎを支えているのは市場で名の通った"定番の売れ筋"で、自社が本当に育てたい領域の収益力は、伸び悩んでいた。
競合と比べると、"手の広げすぎ"が際立つ。市場での順位は中位。それなのに、限られた人数で、あれもこれもと手を伸ばしている。強みが分散し、広く薄くなっていたのです。
※用語注:市場が成熟して製品の差が小さくなり、価格でしか競えなくなることをコモディティ化と呼びます。「広くカバーしているのに儲からない」現場は、たいていこの価格競争に巻き込まれています。
「2030年に向けて、どう成長するか」。既存事業の延長線上をいくら眺めても、その答えは出てきませんでした。私たちは、まずこの霧を晴らすことから始めました。
当社のアプローチ-"何でもやっている"を論点に分解する
私たちが最初にやったのは、新しい事業案を並べることではなく、「この会社は、結局どの問いに答えれば成長の道が見えるのか」を整理することでした。進め方は、3つのステップです。
① どこで稼ぎ、どこで失っているかを"見える化"する
まず、感覚で語られていた収益を、チャネル別・ブランド別・拠点(顧客のまとまり)別に分解しました。すると、「なんとなく主力だと思っていた対面事業が、実は利益を食っている」「逆に、通販は少人数で稼いでいる」といった事実が、くっきりと浮かび上がります。
ここで見えた本質的な課題は、シンプルでした。プロの現場向けに、"独自の強み"を作れていない。だから価格でしか勝負できず、薄利になる。まず、この一点を全員の共通認識にすることが、出発点になりました。
② 未来のニーズを、メガトレンドから先取りする
次に、視線を「今」から「これから」へ移します。社会の大きなうねり(メガトレンド)――たとえば省人化の進展や、環境への配慮――が、自分たちの事業のニーズをどう変えるかを読み解きました。
※用語注:メガトレンドとは、社会全体を長期にわたって動かす、大きな流れのこと。目先の流行ではなく、10年単位で効いてくる変化を指します。
たとえば「人手をかけずに現場を回したい」という流れが強まれば、"人が張り付いて確認しなくても、衛生の状態が保たれている"ことを求める需要が立ち上がります。こうした未来のニーズを、まだ競合が本気で手をつけていないうちに、先に取りにいく。ここに、大きな成長の芽があります。しかも面白いことに、こうした新しいニーズは、領域を越えて似通ってくる。だから、一つの領域で作った仕組みを他の領域へ使い回せる――"広く薄い"を強みに変えるヒントが、ここにありました。
③ 点を「面」にまとめ、選択と集中する
最後に、点在する事業を一枚の「面」にまとめ直します。ばらばらの点のままでは強みになりませんが、面にまとまると、他社が簡単には真似できない独自の"陣地"になる。面の作り方には、2つの方向があります。
面の作り方 | 考え方 | 得られる強み |
縦(業界特化) | ある業界に絞り、その業界のニーズを"漏れなく"満たす | 範囲の経済性(「この業界のことなら、この会社」) |
横(技術・強みの横断) | ある得意技術・強みを軸に、いろいろな業界へ広く展開する | 規模の経済性(「この技術なら、この会社」) |
※用語注:範囲の経済性は「一社で関連領域を幅広く手がけるほど有利になる」効果、規模の経済性は「量をこなすほど一つあたりが安く・強くなる」効果のこと。縦は前者、横は後者を狙います。
この"縦か横か"は、製造業に限りません。サービス業なら「ある業種に特化して深く」か「得意なサービスを横に広げるか」と読み替えられます。そして、どちらの方向でも、最初に攻める領域は3つのモノサシで選びます。㋐すでに取引の入り口(チャネル)を持っている → ㋑これからニーズが伸びる → ㋒ニーズはあるのに競合がほとんどいない"美味しい"領域。この3つが重なるところから、狭く深く攻める。足りない技術や人材は、自前で抱え込まず、提携やM&A(企業の合併・買収)で補う前提で描きます。全部を自社でやろうとしないことが、かえって勝ち筋を鋭くします。
支援の成果-真っ白な「2030年」が、諮れる一枚の地図になった
検討を終えたとき、真っ白だった「2030年の姿」は、経営会議に諮れる一枚の地図に変わっていました。
どこで稼ぎ、どこで失っているかが、数字で見える化された。議論が「感覚」から「事実」に変わった。
目指す姿が定まった:単に「モノ(製品)を納める会社」から、その"状態"そのものを保証する存在へ。プロセスの一部を担う"モノ売り"から、状態を守り続ける"コト売り"への価値転換です。
全方位をやめる覚悟が決まった:薄利で消耗している領域は縮小し、少人数で稼げている入口を足場に、"人手をかけずに状態を保証する"方向へ狭く深く。そんな初手の候補と選び方(3つのモノサシ)まで、絞り込みました(縦で行くか横で行くか、最終的な一手は、経営会議での判断に委ねられます)。
そして何より変わったのは、会議の空気でした。「うちの強みは何か」という堂々巡りが、「どの領域を残し、どこから縮むか」という、前に進む意思決定の議論に変わったのです。きれいな戦略資料が1枚増えたのではありません。会社が同じ絵を見て、翌年から動き出すための"共通の土台"ができた、それが、この一枚の価値でした。
※用語注:この事例は、成長戦略を立案し、経営会議での承認を目指す段階(中期計画づくり)にあたります。ここで描いた地図をもとに、実行はこの先へと続きます。私たちは、その具体化・実行にも伴走します。
一つ、この事例のいちばんの学びをお伝えします。それは、「広くカバーするほど、弱くなる」ということ。良かれと思って手を広げると、リソースが薄まり、どこも中途半端になる。強みは、"足し算"ではなく、"選択と集中"という引き算から生まれます。
この事例と「共通地図」-霧を、動ける地図に変える
改めて振り返ると、私たちがやったことの本質は、奇抜な新規事業を思いついたことではありません。「どう成長すればいいか分からない」という霧を、論点に分解し、見える化し、選択と集中で、誰の目にも見える一枚の地図に変えたこと。この営みそのものが、価値でした。
これが、私たちの事業「共通地図」です。世の中の支援は、大きく2つに分かれています。経営コンサルは「答えは出すが、やり方は社内に残らない」。PMOは「決まった作業は管理するが、"そもそもどこを目指すか"は描けない」。私たちは、そのどちらでもない、第三の場所に立っています。
※用語注:PMO(Project Management Office)は、プロジェクトの進捗・課題・リソースを管理・支援する役割・組織。実行の管理は得意な一方、「そもそもどこを目指すか」の構想は担いにくい立場です。
本事例で発揮したのは、〈どこで勝つかを見立て、論点に分解する力〉と、〈複雑な事業を、誰もが見える形に整理する力〉。この2つで、霧を"動ける地図"に変えました。共通地図は、ここにもう一つの脚を掛け合わせます。描いた地図の論点や判断の根拠を構造化して残せば、担当者が代わっても、市況が動いても、同じ問いで戦略を引き直せる――この"再現できる資産として残す"ところを、生成AIで支えます。だから成果は、その場限りで終わらない。答えだけ渡して撤退後に止まるコンサルとも、決まった作業を管理するだけのPMOとも違う、共通地図だけの立ち位置です。
そして大事なのは、この進め方が衛生や成長戦略に限らないこと。新規事業、事業戦略、業務改革、DX(デジタル化による事業変革)――「何から手をつければいいか分からない」上流のテーマであれば、同じ形で効きます。成長戦略の立案は、その代表的な一例です。
まとめ-成長戦略の立案は、"選択と集中"から
成長したいのに前に進めないとき、私たちはつい「もっと事業を増やそう」「もっと現場を頑張らせよう」と考えます。けれど、この事例が示しているのは、壁の正体は事業の"数不足"ではなく、"どこで勝つかを選べていないこと"と、"点が面になっていないこと"だということです。
どこで稼ぎ、どこで失っているかを、見える化する。感覚を、事実に変える。
未来のニーズを先取りして、勝つ領域を選ぶ。競合が手をつける前に、狭く深く。
点を面にまとめ、選択と集中する。増やすほど薄まり、決めるほど濃くなる。
「何でもやっているのに、強みがない」。もしそう感じながら足踏みしているなら、足りないのは事業の数ではなく、まだ描かれていない一枚の地図なのかもしれません。
株式会社Labz.の「共通地図」は、経営コンサルとPMOの"間"にある白地――明確な答えのない上流テーマ(成長戦略・中期計画・新規事業・事業戦略など)のプロジェクト推進を、論点設計から、動けるタスク・判断への分解、そして生成AIで再現できる"地図"づくりまで支援し、その後の検証・実行にも伴走するサービスです。 「うちも、どこで勝つかを決めきれずにいる」――もしそう感じられたら、まずは30分、現状をお聞かせください。売り込みではなく、"どこに霧がかかっているのか"を、一緒に見立てるところから始めます。




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