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「他社と何が違うの?」に答える新規事業の差別化-競合の"空白"を突いて勝ち筋を描いた事例

公開 2026-07-10

うちにも技術はある。データもある。だから、ソフトやAIで新しい事業を。そう考えて動き出したものの、提案した会議で、必ずこの2つを問われます。「で、それ、他社と何が違うの?」「本当に儲かるの?」。そして、言葉に詰まる。新しい事業が止まるのは、たいていこの2問です。

これは、私たちLabz.が実際にご支援した、ある造船会社の話です。同社は、海運会社向けの「航路最適化AI」船の燃費を減らすために、最適な航路を提案するソフトで、新しい事業を立ち上げようとしていました。市場は伸びる。技術もある。けれど、「後発の自分たちが、なぜ選ばれるのか」が描けずにいました。

先に、結論をお伝えします。突破口になったのは、機能を足すことでも、AIの精度を上げることでもありません。競合を"タイプ別"に並べて、誰も埋めていない「空白」を見つけ、そこに自社の強みを当てはめて差別化を定義したこと。そしてPoC(小さな技術検証)で「できたこと」と「まだできていないこと」を、同じ熱量で示したこと。これが、私たちの考える新規事業の差別化の描き方です。そしてこの進め方は、造船に限りません。既存事業の隣に、ソフトやサービスの新規事業を立ち上げたい会社すべてに、同じ形で効きます。

※本記事は、実際のご支援事例をもとにしていますが、クライアント企業の特定につながる情報(社名・競合名・開発費や価格の内訳など)はすべて伏せ、要点を一般化して構成しています。

支援前の状況-「市場は伸びる。でも、後発の自分たちがなぜ選ばれるのか」

最初にお話を伺ったときの状況は、新規事業を立ち上げようとする多くの現場に通じるものでした。

  • 追い風は、確実にある。国際的な温室効果ガス削減の流れのなかで、船の燃費を減らす航路最適化は、削減に欠かせない施策になりつつある。世界市場は、数年で約2倍に成長すると見込まれていました。

  • ところが、すでに先行プレイヤーがいる。気象データを持つ会社、運航の実績を持つ海運会社、AI開発を得意とするシステム会社。「後発の自分たちが、どこで勝つのか」が、まったく描けていませんでした。

  • そして、「本当に事業になるのか」が全部あいまい。導入すると顧客はいくら得をするのか。自分たちの技術で必要な精度は出るのか。いつ投資を回収できるのか。問いはあるのに、答えの出し方が決まっていない。

つまり課題は、技術力の不足ではありませんでした。「誰の、何を、どこで、どう上回るのか」が定義できていないこと。私たちは、そこから手をつけました。

当社のアプローチ-"勝ち筋"を、3つの手順で言葉にする

私たちが最初にやったのは、機能一覧を作ることではなく、「この新規事業は、どの問いに答えれば前に進むのか」を整理することでした。進め方は、3つのステップです。

① 導入効果を、3つの"別々の方法"で試算して収束させる

「顧客はいくら得をするのか」が曖昧なままでは、顧客も、自社の経営も動きません。そこで私たちは、顧客1社あたりの便益を、互いに独立した3つの方法で見積もりました。

  1. 政策目標からの換算:国が掲げるCO2削減目標を、燃料の消費量に読み替える。

  2. 他社の実績からの推定:燃料費の平均額に、他社ソリューションが公表する削減率を掛ける。

  3. 実務家の知見:現場を知るエキスパートに、直接ヒアリングする。

三者三様の方法で出した数字が、だいたい同じ水準に収束したとき、その試算は「こちらの願望」から「筋の通った推定」へと近づきます。本件では、燃料費の削減だけで年間500万〜1,000万円/隻規模に収束しました(あくまで試算値です)。一本の推定は疑われます。三本が同じ場所を指せば、議論の土台になる。この一手間が、後の投資判断を支えました。

② 競合を"タイプ別"に並べ、誰も埋めていない「空白」を見つける

競合を一社ずつ丹念に調べても、なぜか勝ち筋は見えてきません。私たちは、プレイヤーをタイプに束ね、それぞれの強み・KPI・アプローチを並べました。競合のKPIその会社が"何を良しとしているか"を横に並べると、誰も見ていない場所が浮かび上がります。

※用語注:KPIは「重要な評価指標」。売上や精度など、その組織が追いかけている物差しのことです。

プレイヤーのタイプ

強み

KPI(何を最適化しているか)

気象データの会社

気象・海象データの保有と予測

安全性と、コストの最小化

海運会社

豊富な運航業務の実績

安全性と、運航収益の最大化

システム開発会社

システム・AI開発の実績

予測の精度

こうして横に並べると、各タイプの限界が見えてきました。システム開発会社は、データの作り込みに向かうあまり、使いやすさや全体最適の視点が抜けがち。KPIが「運航収益の最大化」に寄ると、経営の視点は強いが、現場の視点が弱くなる。そして中堅以下の会社は、そもそもデジタルの人手も体力も足りず、導入が進んでいない

ここに、空白がありました。「中堅以下の会社でも導入しやすく、関連業務と連携した航路最適化のパッケージ」は、まだ誰も出していない。

この作業は、造船でなくても同じです。たとえばソフトの領域なら、競合を「総合力の大手システム会社/機能を尖らせた専業サービス/現場に密着した内製チーム」と束ね、それぞれのKPIを並べてみる。すると、どのタイプも本気で見ていない場所、たとえば「導入したあと、現場に定着させるところ」が、同じように浮かび上がります。業界が変わっても、"KPIを並べて空白を探す"という動きは変わりません。

③ 空白に、自社の強みを当てはめて「差別化」を定義する

空白が見つかったら、そこに自社の強みを当てはめます。造船会社の強みは、船を「つくる」だけでなく、修繕・メンテナンスまでバリューチェーン全体を持っていること。ここから、差別化は3つの切り口で定義されました。

  1. 作り込みより、導入しやすさ:業界で共有されているオープンな運航データで動かす。個社ごとのデータ整備に依存しないから、導入のハードルが下がる。

  2. 個別最適より、全体最適:航路計画・修繕・メンテナンスと連携させる。航路を変えれば必要なメンテが変わり、メンテをすれば航路を引き直せる。

  3. 管理者以外にも、使ってもらえる仕組み:運航管理者だけのシステムにしない。似た条件の航海どうしをスコアで比べてランキングにするなど、船員や船主が自分から使いたくなる仕掛けを設計する。

※用語注:バリューチェーンとは、原材料から製品・サービスが顧客に届くまでの一連の業務のつながりのこと。ここでは「建造 → 修繕 → メンテナンス」という、造船会社が丸ごと持っている流れを指します。

大事なのは、「点」の機能で戦わないことです。航路最適化という一機能で精度を競えば、システム開発会社の土俵になります。けれど、修繕やメンテとつながった航路最適化は、気象データの会社にもシステム会社にも持ち得ない連携です。バリューチェーン全体という強みを、"業務がつながる面"の価値へと変換する。ここが、勝ち筋でした。

そしてもう一つ。「誰に使ってほしいか」を起点に、その人が使いたくなる仕掛けから設計する。良い機能を作れば使われる、とは限らないのです。

支援の成果-「何が違うのか」に、一枚の絵で答えられる状態へ

検討を終えたとき、答えに詰まっていた2つの問いに、根拠をもって答えられる状態になっていました。

  • 「他社と何が違うのか」:競合の空白(導入しやすさ・全体最適・現場の利用)に、自社にしかない強み(修繕・メンテ連携)を当てた、一文で言える差別化

  • 「本当に儲かるのか」:3つの方法で収束させた導入効果と、投資回収の見通し。機能を一度に作らず、自社の強みである修繕連携から段階的に出していけば、最初の機能を出した直後から単月の収支が均衡し始め、3年弱で投資を回収できるという"超概算"の絵が描けました。初期の導入先は、すでに深い関係のある既存顧客既存の製品基盤と顧客とのつながりが、そのまま新規事業の"最初の市場"になるのです。

※用語注:ここで注意したいのは、年間500万〜1,000万円/隻は「顧客が得をする額」であって、自社の売上ではないということ。価格や導入数はこの段階ではまだ"超概算"です。つまりこの事例が到達したのは「儲かると分かった」ではなく、「投資判断ができる状態になった」ところまでです。

そして、この事例のいちばんの学びは、技術検証(PoC)の扱い方にあります。私たちはPoCで、運航データを使い、プロペラの回転数から燃料消費量を約92%の精度で予測できることを確認しました。ただしこれは、限られたデータで得た暫定値です。だから報告書に同じ熱量で書いたのは、「まだできていないこと」のほうでした。

  • 受け取ったデータには、位置情報の飛びや必要な項目の欠落があり、そのままAI解析に使うには足りない。サービスを始める前に、データ品質の見極めが要る。

  • 検証は1隻・1日分のデータに限られるため、広く通用するかはまだ分からない

  • 一部のロジックは、精度の確認が済んでいない

つまりこの92%は、「もう作れる」という証明ではなく、「筋は良さそうだ」という兆候にすぎません。都合の悪いことを伏せれば、次の投資判断を誤らせます。PoCの価値は「できた」と言うことではなく、「どこまで確かめられて、何が未検証か」を明らかにすること。そこまで示して初めて、経営は「次に、いくら投じるか」を正しく決められます。

そして私たちが最後に残したのは、結論のスライドではありませんでした。「問いと前提の、組み立て方」です。燃料の価格が動いても、規制が変わっても、競合が新しい手を打ってきても同じ3つの方法で効果を測り直し、同じタイプ表で空白を引き直せる。答えは変わっても、答えの出し方は残る。だからこそ、「他社と何が違うの?」「本当に儲かるの?」というかつて詰まった2問は、いま次の投資判断を進めるための、具体的な議論のテーマに変わりました。

※用語注:この事例は、市場・競合の分析、差別化方針の策定、技術検証(PoC)、収益モデルの試算までの段階です。次の段階では、船主へのインタビューで「筋の良さ」を確かめ、複数の船・複数の航路で精度を検証していきます。私たちは、その先にも伴走します。

この事例と「共通地図」-霧のかかった構想を、投資判断に進める地図に

改めて振り返ると、私たちがやったことの本質は、優れた機能を思いついたことではありません。「ソフトで新規事業を」という霧のかかった構想を、答えるべき問い(論点)に分解し、効果はいくらか/誰と戦うのか/どこが空白か/自社の強みは何か/いつ回収できるか見える化して、次に動ける一枚の地図に変えたこと。この営みそのものが、価値でした。

これが、私たちの事業「共通地図」です。経営コンサルは「答えは出すが、やり方は社内に残らない」。PMOは「決まった作業は管理するが、"そもそもどこを目指すか"は描けない」。私たちは、そのどちらでもない第三の場所に立ちます。結論のスライドを置いて去るのではなく、前提が変われば自分たちで引き直せる"型"を、貴社の手に残す。今回で言えば、3つの方法で効果を測る枠組みと、KPIで空白を探すタイプ表が、それにあたります。

※用語注:PMO(Project Management Office)は、プロジェクトの進捗・課題・リソースを管理・支援する役割・組織。実行の管理は得意な一方、「そもそもどこを目指すか」の構想は担いにくい立場です。

正直に、段階もお伝えします。この事例で私たちが使ったのは、分析と技術検証であって、生成AIではありません(「航路最適化AI」は、あくまでお客様がこれから作る製品のほうです)。共通地図が掛け合わせるもう一つの脚は、この先にあります。描いた地図を属人化させず、前提が変わるたびに、誰でも同じ問いで引き直せる資産にする。その再現可能化を、生成AIで支える。「魚を渡す」のではなく、「魚の釣り方の地図を、AIで描いて渡す」。目指しているのは、そこです。

そして大事なのは、この進め方が新規事業に限らないこと。事業戦略、業務改革、DX(デジタル化による事業変革)、生成AIの導入「何から手をつければいいか分からない」上流のテーマであれば、同じ形で効きます。

まとめ-新規事業の差別化は、"空白"を見つけることから

新しい事業が進まないとき、私たちはつい「技術が足りない」「もっと機能を」と考えます。けれど、この事例が示しているのは、壁の正体は技術力の不足ではなく、"誰の何を、どこで、どう上回るのか"を定義できていないことだ、ということです。

  • 効果は、3つの別々の方法で試算して収束させる。一本の推定は疑われ、三本が同じ場所を指せば、議論の土台になる。

  • 競合はタイプ別に並べ、KPIから"空白"を見つける。そこに、自社にしかない強みを当てる。

  • PoCは「できたこと」と「未検証」をセットで示す。そこまで示して初めて、次にいくら投じるかを決められる。

「で、他社と何が違うの?」。もしその問いに詰まっているなら、足りないのは技術でも気合いでもなく、まだ描かれていない一枚の地図なのかもしれません。

「うちの新規事業も、"何が違うのか"を言い切れずにいる」――もしそう感じられたら、下記より、まずは30分お聞かせください。売り込みではなく、"どこに霧がかかっているのか"を、一緒に見立てるところから始めます。 (株式会社Labz.の「共通地図」は、明確な答えのない上流テーマ――新規事業・事業戦略・業務改革・生成AI導入など――のプロジェクト推進を、論点設計から、生成AIで再現できる"地図"づくりまで支援し、その後の検証・実行にも伴走するサービスです。)

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